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「レイちゃん、エルに何もされてない? 変な魔法をかけられてない? 僕が先生に呼び出されたばかりに…ごめんねっ」
振り返って私を心配そうな顔で見つめてくるザカライアを安心させるよう微笑んでいると、「過保護だな」とガブリエルが呆れたように言った。
「大丈夫よザッくん。ガブリエル様も…先程はお揶揄いが過ぎたのですよね?」
私が真意を確かめる視線を向けて問うと、ガブリエルは「くくっ」と意味ありげな笑みを浮かべた。
「妹の件は嘘だが、魔術師として君がザックの伴侶に相応しいとは思わないな」
「耳を傾けなくていいよ、レイちゃん!」
ザカライアは私を守ろうとしてくれているけど…私はグッと奥歯を噛み締める。
「…それは私が、マナの量が少なく魔術に明るくない家系だからですか?」
「まあ、そうだな」
肩をすくめて答えるガブリエル。
「レイちゃん、そんなことない。僕には君だけだよ! それに僕の全ては、レイちゃんのためにあるんだ。だから…」
「ザカライア」
私に縋るようなザカライアの言葉を遮って、ガブリエルが名前を呼んだ。しかし、その声色は先程までの柔らかさなどなく、氷のように冷たい。
「じゃあ君は、どういったつもりで先生に弟子入りしたんだ?」
ザカライアがピクリと肩を反応させる。
「婚約者に相応しい男になりたいと、確かにかつての君は言っていた。じゃあ、目標は既に十分満たされているだろう? だったら何故、君は未だに先生に師事して貰っているんだ?」
鋭い、ガブリエルの言葉。それはザカライアの本心を丸裸にしてしまうほどに、鋭いのだ。
「君が魔術の道を、進みたいと思っているからだろう?」
ガブリエルの言葉に、ザカライアは何も言わずに俯いた。それは、是としていることと同義だと私は思った。
ザカライアは、多分、魔術に触れて新しい目標が出来たのだと思う。
「ザッくん」
私が声を掛けると、ザカライアは不安そうな顔で私を見た。何を言われるのか、怖がっているような様子すらみせている。私に振られると思っているんだわ。
「ザッくんは私のために沢山の努力をしてくれたよね。だから、今度は私の番」
ザカライアは目を大きく開く。
「きっとザッくんに相応しい伴侶になってみせるから、待ってて」
私がそう言って笑うと、ザカライアは感激したように紫の瞳を潤ませた。
「レイちゃん…僕、例えお爺ちゃんになったとしても待ってるからね!」
「うん、でもやっぱり若くて綺麗な時に結婚式を挙げたいから、そんなに待たせないよう頑張るわ!」
私とザカライアが微笑み合っていると、毒気の抜けたような顔をしたガブリエルがパチンと指を鳴らした。
その瞬間、静かだった図書館に人の気配と声が沸き立った。
「まずは、魔法の察知が出来る様にならないとだな」
ガブリエルが意地悪な、含みのある笑みを浮かべて言う。
私は、まさか防音魔法が張り巡らされていたとは思わずに驚いた。でも確かに、図書館であれだけ騒いだのに誰も注意に来なかったし、それだけでなく他の利用者の声も一切聞こえていなかった。
このことだけでも、私の魔術の才が絶望的なことは嫌でも痛感してしまう。けれど、だからと言って努力しない理由にはならないのだ。
「ふふん、ガブリエル様の吠え面が今から楽しみだわ!」
私は両手を腰に当てて、強気な姿勢で笑ってみせた。
「ザック…君の婚約者は、恐ろしいほどに負けず嫌いなんだな」
「そんなレイちゃんも、可愛くて素敵だ…!」
きっと必ず、ザカライアに相応しい私になってみせる。
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