参 レイラ、知識チートする

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 ザカライアの顔がゆっくりと動く。私はそっと目を閉じて…右耳にピリッと痛みを感じた。  驚いて目を開くと、ザカライアが先程髪をかけた私の耳を甘噛みしたことが分かった。ザカライアの甘い顔立ちに色気のある笑みを浮かべて、彼は言う。 「ふふ、キス、されると思った?」  その瞬間、私は「ふにゃっ」と前世も含めて未だかつて発したことのない、間抜けな声をあげて腰が砕けてしまった。  すぐさま反応したザカライアに、しっかりと抱きとめられたのだが、一人では立っていられない程だった。真っ赤な顔で涙目の私に見上げられたザカライアは、「あはは」と珍しく声を上げて笑う。  軽々と私を横抱きにすると、ザカライアはいつも通りの甘い微笑みを浮かべて言った。 「今後、悪戯をする時は、それ相応の覚悟でね、レイちゃん」 「……ごめんなさい」  そりゃ、私から仕掛けたけれども。私がしたことなんて、たったの、上目遣いと髪を耳にかけただけですが?  十倍どころじゃない威力の破壊力を持った反撃を受けて、私は何となく納得出来ないなぁ、と不満な目を向けると、ザカライアはニコッと愛らしく笑う。  まあ、見事に返り討ちにあった訳だが、やはりザカライアは年々、危険度が高まっている気がする。その、色香方面に…。 「今日は雲が少なくて星が綺麗だったから、見に行こうって誘いに来たんだ」  ザカライアは私の部屋を訪ねて来た理由を教えてくれた。私は嬉しくて元気よく頷くと、突然ザカライアが私の頬にキスをしてきた。 「…ごめんね、レイちゃんがあまりにもかわいくて」  我慢出来なかった、と続けるザカライアに、私は頬を染めながらも尋ねてみた。 「口にキスしなくて、良かったの?」  するとザカライアがすぐに私を叱りつけるような顔をして、こちらを見てきた。 「もうっ、レイちゃん! だめだって言ったばかりだよ?」 「え、これもだめなの?」 「僕にその先を想像させるものはだめ!」  お仕置きとして、この後の私はザカライアに後ろから抱き抱えられたまま星空を見上げることになる。夜風の寒さを凌げて良かったのだが、ザカライアの体温と耳にあたる吐息のおかげで、熱いくらいに体が火照って、星を見る余裕なんて無かった。  それに、隙あらば私のくびれや腹を優しく撫でてくるザカライアの手のおかげで、私の下腹部の奥が締め付けられるような感覚を……こんな夜が続いたら身が持たないと感じた私は、途中、星が流れたので、はやく寮に入れますように、と、願った。   ✳︎  ガブリエルとの図書館での邂逅から一週間と数日が過ぎた頃、私の入寮も無事に決まり、休日の今日はヴァンヘルシュタイン公爵家で荷造りをしていた。私の入る寮は男子禁制だ、気軽に会いに行けないからか、先程からすぐ側で、これ見よがしに悲しげな表情を浮かべて佇むザカライアがいる。それを無視して、私はメイドに指示を出していた。 「レイラお嬢様」  公爵家のメイドが「お客様がお見えです」と知らせに来てくれたので、私は手を止める。 「お客様?」 「来たわね…さあ、ここからが本番よ!」  首を傾げるザカライアを連れて、私は意気込んで客人の待つ応接室へと向かった。  応接室の扉を開くと、そこには父がソファーに腰掛けて私を待っていた。私の顔を見るなり、ぱぁっと表情を明るくさせて笑顔を浮かべる。 「レイ、会いたかったよ!」 「お父様、私もよ」  父が席を立ち両手を広げたので、娘として父の抱擁を受け取りに腕の中へと飛び込んだ。父は愛情いっぱいに私を抱き締めてくれた。 「三週間ぶりかな」 「お父様がこんなに早く会いに来てくれるとは思わなかったわ」  私を抱擁から解放し、「そりゃ、愛娘から会いたいなんて手紙を貰ったら、すぐ飛んでくるよ」と嬉しそうに笑って言った。私からの手紙を受け取って、転移ポータルを使用してわざわざ王都まで来てくれたのだ、感謝の念が絶えない。 「シュテルンベルク侯爵は、いつ見てもレイラに熱烈だなぁ」  気の抜けたような声で言ったのは、父の前隣のソファーに腰掛けていたヴァンヘルシュタイン公爵だった。 「公爵様、本日はこの場をお貸し頂き有難う御座います。しかし、なぜここに…?」  部屋を貸し出してくれた公爵へ頭を下げてから、私は疑問を問うてみた。 「いや、なに…レイラが面白い話をすると聞いて、好奇心でな」  普段、貴族達の前では決して見せない、悪戯っ子のような笑みを浮かべる公爵。幼い頃から知っているからか、皆に恐れられる公爵との関係性は、まるで親戚の伯父さんと姪のそれに近い。未来の義父になるわけだし、『身内』という感覚が強かった。
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