参 レイラ、知識チートする

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「なぜ、魔術を極めたい魔道師たちが放浪の旅に出るのか…それは、まだ知らない魔術と知識を追い求めてなのだと聞きます」  『ワタプリ』のガブリエルルートのハッピーエンディングで、師匠に一人前だと認められたガブリエルとヒロインの二人で魔術の道を進む旅に出るシーンがあった。  まだ自分の知り得ない魔術と知識を追い求めて、たまに見込みのある者を弟子に取っては育てて、そうやって国には縛られず魔術のために生きていくのが本来の魔術師の在り方なのだと、ガブリエルが語っていた。  時代が進み、今では各国の兵力として『宮廷魔術師』と名を与えられて取り込まれつつある魔術師の縛られた現状を嘆き、憤っていたのだ。 「そこで私は、旅に出なくても、知識を得られる方法があるならば? と、考えたのです」 「え…どうやって…?」  父たちよりも、ザカライアが一番に私の話に耳を傾けていた。旅に出ずとも魔術の道を進むことが出来る、そんな彼の望むべき答えを、早く聞きたそうにしていた。  私はふふ、と微笑んで言葉を続ける。 「魔術師たちを集めて、魔術の共同開発が出来る場を作ればいいのよ!」  私の魂胆は至ってシンプルだ。  世界各国に散らばる、『魔道の道を極めたい勢』を取り込み、新魔術の開発や知識交換を通して魔術師たちの研鑽できる場を、シュテルンベルク領地内に整えてやればいいのだ。旅に出てまで得たい知識が、勝手にあちらから寄ってくるシステムを作ればいい。  私がニヤリと笑っていると、父は小さく息を吐いて私に諭すような物言いで言った。 「うーん、レイの狙いは分かったけれど、それなら『魔術教育機関』の設立でも目的は果たされるのではないかな。何も、破綻するかもしれない未来を抱えてまで、起業する必要はないように思えるけどね」  起業はある種の大きな賭け事だ。当たれば豊かな未来が手に入るし、外れれば膨らむ借金を抱える地獄のような未来となる。父の言うことは最もだが、私は同意しかねた。 「それはだめなのです。『教育』を名目に設立すると、それは国の支配下に取り込まれます」  それだと、ただの『宮廷魔術師』の育成機関だ。ザカライアたちが求める場ではない。 「…なるほどね。しかし、『企業』となればそれは国の支配下に置かれることはなく、出資者の所有物となる。ふうむ…」  父は何かを考えるように顎をさすった。 「ところでレイは、どうやってその魔術師を集めるつもり? 魔術師のための会社を作ったのでおいで、と呼びかけて来る人種じゃないでしょ?」  父の質問はごもっともで、しかし想定内だった私は不敵に笑って、この日のために作成した書類を父たちの前に広げた。ザカライアも含めて、男三人が頭を寄せ合ってその資料を覗き込む。 「お父様、私は商会を作るとお伝えしたはずです。であれば、商会の商品で魔術師を集めてみせます」  その提案書には、世に出回っている分母数の少ない魔道具の、いくつかの新規魔道具のアイデアが書き込まれていた。  父たちは少し目を通すと、おそるおそる、といった様子で提案書を思い思いに手に取り、食い入るように読み込んでいた。  私は思った通りの反応に、内心ほくそ笑む。  当たり前だ。その提案書に書いてあるのは、前世の世界でお世話になってきた便利家電をモデルに書き綴られたもので、中世ヨーロッパの世界観である家電の概念の無い意外に不便なこの世界では、神のお告げのようなアイデア集なのだから。  これぞ、前世で流行っていた『前世の知識で異世界チート無双』だろう。幼少期時代に、軽々しく知識を振りかざさなくて良かった。ここぞという時のために、温存しておくべきだよね。  差し当たって、提案書には家電三種の神器である『冷蔵庫』、『洗濯機』、テレビの代わりに『冷風器』のアイデアを書き込んでおいた。冷たいアイスがいつでも食べられるようになりたいとか、マシューが洗濯は大変だとぼやいていたとか、王都の暑い夏に向けて冷風器が欲しいとか、全然そんなことは考えていないが、いいチョイスだと自分では思っている。 「これ…全部レイちゃんが考えたの…?」  ザカライアの震える問いに、一瞬すらも迷うことなく私は笑顔で答えた。 「えぇ! 私が考えた魔道具のアイデアよ!」  前世の偉人たちのアイデアを自分のものにしてしまえる、これぞ知識チートの醍醐味である。
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