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「ザッくん、この提案書を見てどう思った?」
とはいえ、私も僅かながら不安を感じてはいるので、魔術師を目指したいザカライアの意見を思い切って求めてみた。
「それは、もう………どの魔法を組み合わせたらこの魔道具が作れるんだろう、とか、その場合の魔法の衝突を無くすためにはどんな術式を使えばいいのか、とか、色々と考えが溢れ出して止まらないよ!」
ザカライアは興奮した様子で、いつもよりハキハキとした口調で勢いよく語った。
「この冷蔵庫なんか、冷蔵する部分と冷凍する部分を一つの魔道具内で独立させなくちゃいけないなんて、難易度が高いにも程があるよ!」
「つまり、心躍るってこと?」
「うんっ、眠れなくなりそうなほどにね」
ザカライアの素敵な笑顔を眺めながら、私は心の中で何度もガッツポーズをした。魔術師は旅に出てしまうほど知識欲が高い人種なのだ。難易度の高い、理想上の完成品の姿を前に、煽られて興味を掻き立てられることは必須だろう。掴みはこれ以上にないほど良いみたいだ。
あとは出来上がった魔道具を市場に流し、さすらいの魔術師の目に止まるのを待つだけだ。目に止まりさえすれば、難易度の高い魔道具の術式の知識を求めて、シュテルンベルク領地までやって来る、はず。言わば、魔術師ホイホイ作戦である。
「魔道具をまさか、日常生活に落とし込もうとするなんて、レイは奇抜な考えを持つ子だね」
父が感心したように言った。この世に出回っている数少ない魔道具は、全て軍備用であったり国の所有物として扱われるものばかりだ。
本日、父が使用して王都まで来た『転移ポータル』もそのひとつ。他には防壁を張るための魔道具や、火炎放射器のような魔道具など、主に敵国と相対することを想定して作り出された魔道具ばかりなのだ。
「すごく新鮮だ、提案書を見てるだけで楽しくなるな」
公爵もザカライアに少し似た笑み浮かべて、提案書から顔をあげる。
「商会、と名を掲げるのですから、最大限、稼いでみせるつもりです」
始めは出来上がった魔道具も、高額すぎて貴族しか購入できないだろう。けれどそこから改良を重ねて、いずれ平民も気軽に購入できるものが作れたらと思う。それは未来、集まってくれる魔術師たちに託そう。
「今は魔術師たちの共同開発を想定しておりますけど、共同開発『組合』にしてもいいのですよ?」
私が挑発するように好戦的な目で父と公爵を見ると、二人は肉食獣のような鋭い瞳を輝かせて、不敵に笑う。
「ほお、私を投資者として勧誘しているのか?」
「ふふっ、さすが、私の愛娘だねぇ?」
…私は藪蛇をつついたのかもしれない。
「いいだろう、しかし条件付きで、だ。試作品でもいいから魔道具をひとつ作成し、私がそれに投資したいと思えたら、レイラの商会に投資しよう」
公爵がニヤリと笑って言った。
「それなら私は…そうだね、魔術師を最低でも一人確保すること。これが投資の条件かな」
父も悪戯っ子のような笑顔を浮かべる。
「お父様、公爵様…」
私は思わず、安心したように笑ってしまった。なんて簡単すぎる条件なんだ、相変わらず、この二人は仕方ないほどの娘バカなんだから…。魔道具は魔術師が一人いれば必ず作成できるし、それに魔術師は…。
「ザッくん、一緒に魔道具を作ってくれる?」
「もちろんだよ!」
ザカライアがいるのだ。…まあ、もう一人当てがあるので、この提案書をちらつかせてみようと思う。
何となく話が纏まった雰囲気に、公爵がパチンと指を鳴らして明るい声で言った。
「さて、仕事の話はこれで終いだろう。ジルヴィウス、今から一杯やらないか? いいウイスキーがあるんだ」
と、グラスをぐいっと煽るジェスチャーを父に向けて行うと、父は呆れた顔で笑った。
「ヴィクター、君ね、まだ昼間だよ?」
「いいじゃないか。投資者として、可愛い娘に稼がせて貰える未来に乾杯しよう」
「まだ、君の娘じゃないからね」
砕けた口調で言葉を交わす父たち。何だかんだで友人となっていた彼らは、どうやらこれから楽しむようである。
「ああ、それとレイ。こういった状況になったから、私も暫く王都に滞在することにするよ。近々、王都にタウンハウスを購入するから、入寮はキャンセルしておきなさい」
エリーも王都に連れて来てやらないと、と母の事を思いながら呟く父に、ザカライアは期待のこもった輝く目で私を見つめていた。
「レイちゃんっ、たくさん会いに行くね」
学園でも毎日顔を合わせているのですが?
普段ならそんな事を思うはずの私なのに、私はただ嬉しさのあまり笑って頷いて見せた。
後日、再び図書館で相見えたガブリエルに、これが目に入らぬか、と、まるで印籠のように魔道具の提案書を突き付けてやると、ザカライアと同じ反応を示し、魔道具作りの協力を即座に取り付けた。
天才魔術師と評判のガブリエルと、そんな彼に期待を寄せられているザカライアがいれば、結構すごいものが作れるのではないかと、期待している。
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