肆 再会と涙と、友情

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 前世で、皆が『嶺羅さん』と呼ぶ中、私を『レイちゃん』と親しみを込めて呼ぶのは三人しかいなかった。 「アイちゃん、なんだね?」  私は涙の止まらない泣き顔で笑顔を浮かべると、キャロラインも大粒の涙を流しながら笑っていた。  私たちはそのまま抱き合って、互いに再会を喜んでは、ひとしきり泣いた。  前世の友人と思わぬ再会を果たし、嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。   ✳︎ 「あはは、目が腫れるまで二人で泣いちゃったね」  私たちが落ち着いた頃には、夕陽が沈みつつあり、空の朱に紺が混じり始めた時刻だった。 「レイちゃんがいなくなって、色んなことがあったんだよ…」  キャロラインは遠くを見つめながら語り出す。  私の死後、仲の良かった四人の関係性は崩壊してしまったという。周りはいつまでも私の死を引きずり、落ち込む中、励まそうとするキャロラインを無下に扱ったとのことだった。 「あの二人がアイちゃんにそんな事をするの?」  キャロラインの語る、もう二人の友人の姿は、私の知っている穏やかで元気な二人ではなく、人が変わったような印象を受けた。 「本性はとっても最悪だったよ! いつまでも、死んだ人のことを引きずって、かと思えばヒステリックに私と比較するんだもん。本当に嫌な二人だった!」  三人の間に何が起こったのかは分からないが、自分が『死んだ人』と呼ばれていることに寂しさを感じる。  私が曖昧に笑いながら相槌を打っていると、キャロラインは幸せそうな顔でこちらに笑顔を向けながら「はあ、やっとあの二人の本性をレイちゃんに伝えられて、スッキリした!」と言った。  私は何と答えればいいのか分からずに、ただ、ぎこちなく笑ってその場をやり過ごす。私の知っている神代愛花という少女は、どちらかというと、大人しくてあまり自己主張のしない少女だった。個性の強かった私たちを調和してくれるような、そんな物静かで穏やかな少女だった。  だから私は、目の前のキャロラインと神代愛花が中々結びつかず、違和感を感じてしまう。  それから、お喋りなキャロラインの話は移り変わり、『ワタプリ』についての話題となった。 「結局、あれから公式で隠しキャラはまだ発表されなかったんだよね」  事故に遭う前に、確かそんな話をしていたことを思い出す。 「代わりに、モブキャラ達の公式情報が出ていて、レイラ・シュテルンベルクについての情報も載ってたよ」  幼い頃に病気で母親を亡くし、それをきっかけに、仕事を理由に帰って来なくなった父親。そんな環境の中、愛情に飢えて歪んでしまった、それが公式の発表するレイラ・シュテルンベルクというキャラクターであった。  私は知らぬ間に未来を改変していたみたいで、今現在の元気な両親の姿を思い浮かべては、心底安堵する。 「お助け三兄弟については?」  両親に紐付いて、頭に浮かんだ白銀髪の三兄弟のことについて尋ねてみた。 「うん? あ、載ってたよ…確か幼い頃から仲が悪くて、互いに干渉しない関係だったとか。きっかけはレオン王子との確執からで……ごめん、あんまり興味なくて、よく知らないんだよね!」  キャロラインが困ったように笑って、頭を掻く。仲が悪い…確かに、出会った頃の三人はあまり仲良さげではなかったものね。今ではよく笑い合い、戯れ合うのだから、これについても私がまた知らぬ間に変化を起こしたのかもしれない。  ザカライアの婚約者になって、あの三兄弟に一番関わってきたのは私だろうし。 「あ、でもお助け三兄弟はヒロインの幼馴染らしくて、ヒロインが七歳の時に知り合うらしいんだよね。けど、結局一度も顔を合わせること、無かったな…育成対象じゃないから興味もなかったし、今の今まで忘れてたけど…」  なるほど、だからゲームのエイデンとリュカはキャロラインに好意的でザカライアは恋心を寄せていたのか。…ゲームの中の設定でも、ザカライアが他の人を好きになることに嫉妬するなんて、私、こんな女だったかしら? 「しっかし、あの醜い次男に言い寄られるなんて地獄だわぁ、でも上手く利用しないと、エンディングを迎えられないし」  キャロラインが背伸びをしながらそんな事を言う。私は少しだけ腹立たしさを覚えて、むきになって言い返した。 「心配ご無用よ。ザカライアは今、私の婚約者だから、今後一切アイちゃんが言い寄られることはない」  私の棘のある物言いよりも、私とザカライアが婚約関係にあることに驚いたらしいキャロラインは「うえ!?」と、苦い顔をして声をあげた。 「レイちゃん、あの次男と婚約してるの!?」  キャロラインの様子から、今のザカライアの姿を知らないことが伺い知れる。まあ、知ったところで、どうにもならないのだけれど。 「そうよ、だからアイちゃんはザカライアのことは気にせず、自分のことに集中して」  淡々と告げる私に、キャロラインは「そっかぁ…」と憐れみの目を向けながら相槌を打った後、それから切り替えたように笑顔を浮かべた。 「あたし、レオン王子といい感じなんだっ」  どうやらキャロラインは、レオンハーツ王子を選んだらしい。しかし、レオンハーツ王子には既に婚約者がいる…これまではゲームの世界でのことだったので、特に何とも思わなかったが、今は違う。
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