陸 決別のサマー・パーティー

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「——でもまだ息はあるだろっ?」  皆が諦める中、エイデンだけは諦めなかった。 「今この瞬間、オリヴィア嬢は生きてるんだぞ!」 「…うん、そうだね。ごめん、やれる事は全てやろう」  リュカは強い眼差しでひとつ頷いてから、自分の研究室へと走って行った。   ✳︎  騒ぎは、オリヴィアが治療院へ運ばれたことで治っていった。パーティーはもちろんお開きで、生徒たちは不安と戸惑いの表情を浮かべながら会場を後にした。  エイデンとザカライア、ガブリエルはオリヴィアに付き添ってこの場にはいない。グレイシアはリュカの手伝いをすると言って、リュカの研究室に行ってしまった。  バルファルトは気落ちしているユリアンに付き添って、医務室へ向かった。  この場には今、私と、キャロラインだけが取り残されていた。 「アイちゃん…」  今日の出来事は、ゲーム内のイベントに無かった出来事だった。キャロラインが、何かしたの? 何か知っているの? 「なんで、笑ってるの?」  私の問いかけに、キャロラインは可愛らしい笑顔で嬉しそうに言った。 「やったよ、レイちゃん! 大成功!」  私は、眉を顰める。 「こんなに上手く行くとは思わなかったな。ま、でも、飲むなら人知れず飲んで欲しかったけどっ」 「…何、言って、るの?」  私は、唇がわなわなと震えて上手く話せなかった。 「ん? レイちゃんどうしたの?」  そんな私を、キョトンとした表情で見つめるキャロライン。 「オリヴィア様のこと、アイちゃんが何か関係してるの?」 「ねぇ、さっきからレイちゃんってば質問ばっか! 一緒に喜んでよぉ、ヒロインが、悪役令嬢をやっつけたんだからさ!」  私はギリ、と音がする程に奥歯を噛み締めた。分からない、目の前の、この少女の姿を模った何かが笑っている理由が分からなかった。 「アイちゃん! あなた! 人を殺したのかもしれないのよ!?」  抑えきれない感情から、私は叫ぶ。前世の記憶があるからこそ、余計に罪の意識は生まれるものなのではないか? この状況で、笑っていられる神経が信じられなかった。 「はあ? 何言ってんの?」  そんな私とは対照に、悪びれる素振りも無ければ反省の色もない、キャロラインは、ただただ私の態度に腹を立てて顔を歪めるだけだ。 「悪役令嬢は、最終的にストーリーから除外されるでしょ」  この人は、本当に私の知っている、かつての友人なの? 「ただ、それだけだよ」  吐き捨てるように言い切ったキャロラインに、私は無意識に手を上げて平手打ちをしていた。 「……何すんのよ」  キャロラインが睨み付けてくる。 「アイちゃんが、オリヴィア様を追い詰めたのね」  無視して、自分の言いたいことだけを言った。 「ここはゲームじゃない、皆、生きてる人たちよ、私やアイちゃんと同じ、生きてるのよ」  気付けば私の目から涙が出ていた。そんな私を一瞬戸惑った表情で見つめたキャロラインは、すぐにフン、と鼻で軽く笑って「レイちゃんがレイラに転生なんてするから、ストーリーが狂ってあたしが苦労する羽目になったんだよ?」と憤慨しながら言った。 「それにあたしは、オリヴィアに死ねなんて言ってないし、あの薬を渡してもいない。ただ、目の前に置いただけ。それを勝手に持ち帰って、今日あの女が自分の意思で飲んだだけなのに、なんであたしに怒るか分かんない!」  もう、信じることは出来ない。こんな事なら、キャロラインの正体を知らないままでいたかった。 「レイちゃんこそ、貴族令嬢なんてやってないで好きなこと沢山した方がいいかもね? あたし達は所詮、この世界の住人じゃないんだ、いつこの世界が終わるか分かんないし? そうだ、あたしと一緒に、逆ハーレムルート目指しちゃう!?」 「…黙って、これ以上、私の思い出を汚さないで」  私の冷たい目を見て、キャロラインははっと息を飲む。 「私の大好きなアイちゃんはもういないのね」  それは、彼女との決別の言葉。 「さようなら——神代愛花さん」  私は、振り返る事なく、彼女をその場に残して立ち去った。
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