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小ネタ エイデンの長年の夢
(オマケのようなものです。)
✳︎✳︎✳︎
兄が、ある日嫁を連れてきた。
「リュカくん、その、冷たい紅茶はいかが?」
ワインレッドの艶やかな長い髪、目尻の吊った大きな深緑の瞳、所作は完璧で、気品もある。実はスタイルも素晴らしくて、控えめなドレスに身を包んでいるというのに、膨らむところは膨らみ、細いところは細いと分かる。うん、全てにおいてかなりの美人だ。
「あ、そんなに気を使わなくてもいいよ」
休日、学園は休みで僕も久しぶりにゆっくりしたいと思い、自宅のテラスでのんびりと読書をしていたら、オリヴィア義姉さんがティーポットを手に話しかけてきた。
僕に即座に断られたからか、オリヴィア義姉さんは悲しそうな顔を一瞬見せて「そう、読書の時間を邪魔してごめんなさい」と気遣わしげに笑顔を浮かべた。
「ちょっと、オリヴィア義姉さん、どこ行くの?」
立ち去ろうとする寂しげな後ろ姿に声をかける。
「僕、一人で紅茶を飲む趣味ないんだよね。誰かと一緒なら、飲むんだけど?」
生意気すぎたかな…と、兄たちに話すいつもの調子で話してしまったことに後悔していると、オリヴィア義姉さんはぱぁっと明るい笑顔を浮かべて戻ってきた。
「ぜひ、ご一緒しましょう!」
兄が連れてきた嫁は、悪い噂の絶えない人だったが、本当の姿は穏やかで優しく可愛らしい、普通の人だった。
「あれ、ザック兄さん、レイのとこに行ってたんじゃなかったの?」
オリヴィア義姉さんとのんびりお茶を飲んでいたら、ちょうど近くをザカライア兄さんが通りかかった。
「あ、ルカとオリヴィア義姉さん…まあ、ちょっとね」
ザカライア兄さんの様子がおかしいな。いつもじめっとしている兄さんが、唯一明るくなれるのが、レイのことだけなのに。
「何かあった?」
もしかして、まさか、喧嘩? この二人が? 想像つかないが、もしかして僕にもチャンスあるかも?
「この前のサマー・ティーパーティーの時…あっ」
ザカライア兄さんの視線を受けて、オリヴィア義姉さんは「大丈夫よ」と微笑んだ。
まあ、彼女にとって嫌な思い出と同時に、幸せな思い出の日でもあるからね。
あの日、帰ってきたエイデン兄さんが「オリヴィア・モーガン嬢と結婚する」と両親に報告する場に居合わせて、どんなに驚いたことか。
少し前までのエイデン兄さんは、エメラルドの宝石をずっと眺めながら長いため息を吐く毎日を過ごしていた。
エメラルドといえば、レイラの瞳だ。だから僕は『レイのことを考えてるの?』と聞いたら、『そうじゃねぇよ…でも、エメラルドの宝石を見て思い出すのが、いつからか、レイからオリヴィア嬢になったな……あ、いやっ、なんでもない!』と、片思いを一年以上も拗らせていたヘタレ格好悪い兄貴だったのに、急展開を迎えて、まさか一気に結婚までいくとは。
本当に、数日後にオリヴィア義姉さんを公爵家に連れてきて、書類上だけではあるが、二人は夫婦になってしまった。エイデン兄さんが学園を卒業したら、オリヴィア義姉さんも学園を辞めて、式を挙げるらしい。
結婚が決まった令嬢が学園を辞めて家庭に入ることはよくあるので、珍しい話でもない。
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