(1)

1/1
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

(1)

「ミスジョンソンにペンダントを届けてほしい」  父の言葉に、年若い青年――エドワード――は目を見開いた。父の手に握られていたものは、年代物の銀細工のペンダント。見覚えのあるそれは、彼の母が生前大切にしていたものだったからだ。細部まで丹念に装飾が施されたペンダントは、院長とはいえ、一介の平民女性には分不相応にも見える質の良い品物だった。 「失礼ですが、母の親しい友人とはいえなぜ彼女に渡す必要が?」 「私が話しても、お前は納得しないだろう。お前の疑問は、彼女に直接聞いてみるといい。何かあった場合にはわたしが責任を持つ」  一息に言い放つと、深々と椅子に腰掛けて青年の父は長い息を吐いた。年の離れた妻をことさら可愛がっていた父は突然の病で妻に先立たれ、一気に老け込んだようだ。  口を閉ざした父は、話は終わったと言わんばかりに目をつぶっている。このような状態で口を割らせることなど不可能であると理解していたエドワードは、しぶしぶながら言いつけ通り孤児院を訪ねることにした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!