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 ミスジョンソンは、孤児院の院長を勤める未婚の女性である。凛とした容姿、物腰の柔らかさ、そして誰に対しても分け隔てなく接するその姿に熱をあげる男性が後をたたないらしい。それはかつて彼女の足元にまとわりついていた幼いエドワードもまた同じことであった。  彼女に会いたい。会いたくない。相反する想いを抱えたまま、エドワードは彼女の元に向かう。同じ領内なのだ。目的地にはどれだけ遠回りしてもすぐに到着してしまった。久方ぶりに会う彼女は、やはり美しい。女盛りを迎え、どこか内面に憂いを秘めたようなその横顔に胸がざわめく。 「このたびはお悔やみ申し上げます」 「前口上は不要だ。用件に入りたい」  部屋に案内されたエドワードは、挨拶もそこそこに彼女の言葉を遮り、上着の内側からペンダントを取り出した。古いながらも丁寧に磨きあげられた窓からは、木漏れ日が射している。ペンダントを飾る宝玉が光を反射させてきらりと光った。 「あなたに渡すようにと、父から頼まれてきた」 「これは、奥さまが大切にされていたペンダントではありませんか。奥さまが亡くなった今、持つべきは旦那さまです。私が受け取るわけにはまいりません」  エドワードはどこかしらけた様子で鼻をならした。 「殊勝な心がけだ。僕自身、あなたにこれを受け取る資格はないと考えている。どうして長年に渡って母を苦しめたんだ」  ミスジョンソンに困惑の表情が浮かぶ。それを演技だと判じ、青年は苛立たしげに自身の髪をかきあげた。若い母のさらに年の離れた親友であり、ほのかに憧れと恋心を募らせていた相手が父の不倫相手だったと知ったとき、どれほど自身が衝撃を受けたか。  相手に報いを受けさせたい。ねじれた愛情は、ひどくがんじがらめに彼を苦しめていた。
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