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 部屋の中は静まり返り、外からにぎやかな子どもたちの声が聞こえるばかり。またしても口火を切ったのは、やはり青年のほうだった。 「では、父はあなたのもとをたびたび訪れ、一体何をしていたというのだ」 「大声を出さずとも聞こえておりますよ。隠し立てするようなことは何もありません。旦那さまとは、奥さまのことについて相談を受けていたのです」 「母のことについて?」  首をかしげれば、当然といった様子で彼女は重々しくうなずいた。 「ええそうです。結婚を反対され、駆け落ちして行方知れずになっていた伯爵家の一人娘の忘れ形見。その彼女が旦那さま、あなたのお父上と出会ったのは、まさにこの孤児院だったのです。彼女について聞きたいことがあれば、私を訪ねてくるのは当然というもの」 「母の話をするためにここへやってくるなんて、何の意味があるのだ。母は自邸にいたのだから、好きなだけお互いに話をすればよいだろう」  青年の言い分に、ミスジョンソンはゆっくりと首を振る。だからお前は何もわかっていないとでも言われているかのようで、エドワードを酷く苛立たせた。 「いくら美しく、気立てのよい少女でも、全く異なる環境に飛び込めば気鬱にもなるでしょう。それに貴族の家族というのは、平民の家族とは異なるものです。迎えに来てくれた前ご当主さま方が温厚な方だったとはいえ、気苦労も絶えなかったことは想像にかたくありません」 「……父と結婚したことは、母にとって不幸なことだったのだろうか」 「幸福か不幸かなんて、きっと死ぬ間際でもないと、自分自身にだってわからないのでしょうね」  エドワードがゆっくりと茶器を傾ける。穏やかな香りが鼻腔をくすぐった。 「……それでも母は、父のそばにいたかったんだろうな」  ミスジョンソンは最後の言葉を青年の一人言とみなしたのか、何も言わぬままお茶を口に含んだ。
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