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 青年を見送った後、ロージーはひとりロケットをもてあそんだ。手に馴染む心地よい重さ。()()()()()()()()()()()()()()懐かしい重み。  ――本当にこの女性はあなたではないのか。こんなに似ているのに?――  まさかそんな言葉を聞く日が来るだなんて。あの日枕を濡らした小さな子どもが慰められたような気がして、ロージーはわずかに口元をほころばせた。 「私、あなたのこと、ちっとも怒ってなんかいなかったのよ。だってどうせ私では、貴族として暮らすことなんてできなかったわ。駆け落ちして、平民として慎ましく生きた母さんはとても満足そうだった。私もそれでいいと思っているの」  ペンダントにひとつ口づけを落とし、その細い首にかける。ロージーは宣言した通り、嘘をつくことはなかった。ただ真実をすべて告げることもなかった。それだけのことだ。  出奔した伯爵令嬢を母に持っていたのは、ロージーの方だった。ロージーの母は、駆け落ちした相手と貧しいながらも仲睦まじく暮らしていた。流行り病にかかることさえなければ、平凡な人生を全うしたにちがいない。 『可愛いロージー。先に逝くわたしたちを許してね。貴族の世界は、きっとあなたを苦しめる。好きなひとがその世界にいるのなら構わないけれど、そうでないならうかつに名乗り出てはダメよ。わたしのペンダントも、誰にも見せてはダメ。どうしようもなくなったらその時は……あなたの判断に任せるわ』  両親を失くしたロージーは、自分の判断で孤児院の門を叩いた。周囲の人々も裕福とは言いがたい。孤児院に入ると「売られる」のではないかと心配する近所の人々をなだめながら、ロージーはここへとやって来たのだ。母のペンダントを手放したくなかったということ以上に、質屋を通して追っ手をかけられることを恐れたのだ。  そこで出会ったのが、エドワードの母だった。
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