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 エドワードの母は、ロージーよりもいくつばかりか年上の少女だった。際立つ美貌に、貴族の血を引いているのではないかと噂されるような美少女。伯爵令嬢の母を持つロージーよりも、よっぽど美しさと気品を兼ね備えていた。性格は全然異なっていたけれど、ふたりは驚くほどうまがあった。 『親友同士、秘密はなしよ』 『ええ、もちろんよ』  そうしてロージーは、彼女にだけこっそりと自分が持っていたペンダントの秘密を告げたのだ。仲良しの親友の証として。まさかそれがあんな未来を招くなんて、予想もできずに。  それから数年後。ロージーの親友だった少女は、孤児院の慰問に訪れた貴族の少年に恋をした。  もちろん平民の孤児が、貴族の子息と結ばれることなどありえない。そう、普通ならば。  ただ、そこに運命の悪戯があった。ちょうど同じ孤児院には、伯爵家を出奔した貴族令嬢の娘がいたのだ。 『わたしの母は、伯爵令嬢だと話していました。自分のわがままのせいで両親に心配をかけてしまったことを詫びたいとも。何か困ったことがあれば、これを見せるようにと言われていました』  ロージーの親友がそう言いながらペンダントを貴族の少年の父親に差し出したとき、ロージーは裏切られたとは思わなかった。むしろ、そこまでして少年と結ばれたいと思っていた親友の気持ちに気がつかなかった自分の鈍さを恥じた。 「バカね。そうまでして手に入れた生活なのに、不安がるなんて。堂々と暮らしていれば良かったのに」  それにロージーにしてみれば、祖父母が自分に気がつかなかったことこそが悲しかった。今でこそ母に似ているロージーだが、かつては色黒でやせっぽちの見映えのしない少女だった。だからこそ、祖父母が自分ではなく、彼女の親友が娘の忘れ形見だと申し出た際にほっとしたように笑いあったことに、仕方がないと思ってしまったのだ。それなのに。
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