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『ごめんなさい、ロージー。本当は全部あなたのものだったのに』
結局、ロージーの親友は少しずつ精神を病み始めた。好意を寄せていた貴族令息が伯爵家に婿入りしたことが結局は彼女を追い詰めた。
彼女自身が伯爵家の血を継いでいない以上、お家のっとりになるのではないか。そんなことを遅まきながら気がついてしまったらしい。
慌てた彼女は夫にすべてを話し、自分と別れてロージーを正妻とするように願い出た。もちろん婿入りしたかつての少年はそれを突っぱねた。そしてその裏で、自分の息子と結婚してくれないかと頭を下げに来たのだ。
『どうかすべてをあるべき姿に』
『何をおっしゃっているのですか』
『我が家に嫁いではもらえないだろうか』
『そんな、私のような平民に頭を下げてはなりません!』
『わたしが見る限り、息子も憎からずあなたのことを想っている』
そんな嘘をついてまで、ロージーに流れる血が必要なのだろうか。彼女は無性に泣きたくなった。
妾になってくれと言わなかったのは、妻への義理立てかそれとも彼女への誠意の証か。それでも、あの年若いエドワードに、自分のような年増を押しつけていいとは思えないのだ。親友の忘れ形見であればこそ、彼自身の幸福のために好きな相手と婚姻を結んでほしい。それはロージーの心からの願い。
「……家なんて、誰が継いだっていいじゃないの」
貴族の常識からかけ離れたその言葉は、あるいはロージーの傲慢さなのかもしれないけれど。
親友のあなたが幸せなら、私も幸せだったのに……。声に出さないまま、目を閉じる。あなたの代わりに祈りましょう、エドワードの幸せを。
それでも、久しぶりに胸元で輝くペンダントは、記憶のままとても美しかった。
「天国のあなたは、昔みたいに笑っていてくれるかしら?」
ロージーの呟きは、頬を濡らす涙とともに床に吸い込まれていく。
そう遠からぬ未来。伯爵家の跡取り息子に、愛していると求婚されるようになることを知らないままで。
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