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江戸で五本の指に入る大店の、秘められた娘。 そう言われると聞こえは良いが、実際のところはただの籠の小鳥。 負い目のある父は叱りはしないが、行動を制限してくる。 父が取り乱して商いに影響が出ると困ることを言い訳に、特に何もしようとしない自分にも嫌気が指す。 「そろそろ戻りましょう」 障子を閉める前の刹那、若い男と目が合ったような気がしたが、気のせいだろう。 賑わいに背を向け、今度こそ本当の厠の方へと歩き出した。
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