コタツでアイスクリーム食べる感覚で

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    「え? 何これ……」  調子に乗って喋っていた忠代が、困惑の声と共に中断する。  忠代だけでなく、絹恵も感じたらしい。 「風かな、ただちゃん?」 「いや、違うわ……」  確かにトンネルの奥から風が吹きつけてくる感覚だが、手を差し出してみても、物理的に風を受ける様子はなかった。  頭や心だけで感じている、つまり精神的に風を受けているような、不思議な気分だ。 「ただちゃん、あそこ! ほら、黒いモヤモヤ……」  絹恵が懐中電灯を向けた先で、周囲の薄暗さとは違う何かが見える。物質的な塊ではなく、陽炎(かげろう)のように揺らぐ影だった。 「もしかして……」  表情を硬くしながら振り返り、忠代が玲子の様子を確認すると……。  前の二人が騒いでいる間。  後ろの玲子は、顔面蒼白で硬直していたのだった。  冗談ではない!  玲子は、心の中で叫びたいくらいだった。  霊感がないはずの二人にも感じられるほど、強い霊なのだ。  玲子は頭が痛くなるほどのプレッシャーを受けており、その悪霊の姿もハッキリと見えていた。  そう、悪霊だ。もう外見だけでわかるくらいだった。  骸骨のようにくぼんだ目や口で、苦悶の表情を浮かべる顔。それが無数に寄り集まっていた。十や二十ではなく、百を超える勢いだ。  忠代の話にあった、トンネル工事で凍死した者たちの成れの果てだろう。その後ここで死んだ者たち――この悪霊に取り憑かれて殺された者たち――も取り込んでいるのではないだろうか。  しかも、そんな『顔』の塊の悪霊が、ずりずりと這いながら、三人の方に近寄ってくる! 「玲子! しっかりしてよ!」  忠代に体を揺すられて、玲子はハッと我に返った。  慌てて両手を前に突き出して、数珠や十字架、パワーストーンなど、ありったけの除霊グッズを『顔』の悪霊に向ける。  どれも効果のほどを確認済みのアイテムだが、『顔』の悪霊は、全く怯んだ様子を見せなかった。 「ねえ、ただちゃん。あの黒いモヤモヤ、なんだか近づいてきてない……?」 「逃げよう!」  真っ先に決断する忠代。玲子の様子を見て、冗談にならない事態に陥ったと悟ったのだ。  くるりと反転した三人は、最初の入り口に向かって走り出す。  しかし……。    
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