墜落して来た神様は

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“ドーン‼︎”  凄い音がした。小さな島国の首都の中心地に、何かが落ちて来たのだ。 「アタタタ…。痛ってー、腰打っちった」  何と、空から降って来たのは、老人であった。ツルツルの頭に、白く長いアゴ髭を蓄えていた。薄汚い布を体に巻き付けた、変な服装の老人が、突然空から降って来たのだ。  辺りは騒然とした。人々が老人を取り囲み、あーだこーだ言っている。しばらくすると、誰かが警官を連れて来た。警官は、この怪しい老人に職務質問を始めた。すると、老人は言った。 「ワシ、神様。せっかく天界で、昼寝してたのに、寝ぼけて落っこちちゃった」  警官は面倒臭そうな顔つきになった。老人と警官は、しばらくの間、問答を続けたが、老人からは、『自分は神様だ』とか『天界から来た』と言う言葉しか出て来なかった。警官は老人を警察署に連行した。  老人は警察署に行っても『ワシ、神様。解放しろ。さもないと、とんでもない目に遭うぞ。コラ』などと、暴言を連発した。もちろん捜査を引き継いだ刑事は激怒した。そして、適当に罪をでっち上げて、老人を現行犯逮捕してしまったのだった。  時は世紀末。工業の発展によって、このちっぽけな島国は世界有数の先進国として、名と地位を築きつつあった。その陰で、国家の中枢機関では、表には出て来ない汚職や事件が頻発(ひんぱつ)していた。この老人の事件も、そんな数ある裏の事件の一つなのだった…。  逮捕されてしまった老人、自称神様は、有無言わさず裁判にかけられた。そして、老人は、裁判でも同じ主張を続けた。 「ワシ、本当に神様。解放しろ。さもないと、とんでもない目に遭うぞ。コラ」  裁判官は何故か怒り狂った。そして、異例の判決を出した。 「この、(ろく)でなしのクソ神様野郎に懲役五十年を言い渡す!虚言、公務執行妨害、そして法廷侮辱罪、殺人未遂、国家転覆罪、公共物破損罪の罪だ!」  自称神様は、その日にうちに刑務所の地下の独房に放り込まれてしまった。真っ暗な独房で、神様は項垂(うなだ)れていた。 「はぁ。何てこった。まぁ、良いや。やっぱり、どいつもコイツもワシの言う事なんて信じやしない。ワシは本当に神様なのに。貧乏神(びんぼうがみ)なのになー。あーあ。この国はこれから(すた)れていくぞ。まぁ、ワシの知ったこっちゃないけど…」  そう言って貧乏神様は居眠りを始めるのだった。  時は流れて、世紀も変わり、二十数年が経った。東洋に浮かぶ、この小さな島国は、この四半世紀で、見事に世界の潮流から外れて、衰退して行った。順調な工業で、世界有数の経済大国だったのは、今は昔。現在では、世界の先進国からは、大きく遅れをとり、国力は低下の一途を辿(たど)っている。  そして、貧乏神様が晴れて、自由になるまでは、あと二十数年かかるのであった。終
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