ヤツはなんでもないものを盗んでいきました

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「い、意味がわからないんですけどっ」 思わず伸ばした手を引っ込めた。 床に落ちたスマホの──メモ。 それを恐る恐る凝視した。 「確かにこれは私の字。でも書いた覚えがない」 奇妙な感覚だった。 物心ついた記憶から、上京して都会の会社に就職して勤務5年目で。 ヒビが入ったスマホは契約まだ1年目で。 そんな細かい事も思い出せるのに、ここニケ月間の事は頭の中に(もや)が掛かったように。ミルクの中に閉じ込められた様な不明瞭さだった。 いよいよ、どうしようかと思ってそのままメモを見つめていると、その隣にくしゃくしゃになったチラシが目に入った。 なんとなく手を伸ばしチラシのシワを伸ばして見ると。 それは『心療内科クリニック・(ばく)』と書かれ、意味深にクリニックの電話番号に赤丸がされていた。 「私、心療内科に……?」 やはり、上手く思い出せずに頭が痛むだけだった。また思い出せない事が増えたと思った瞬間。 ごとりと部屋のクローゼットから何か音がした。 「!」 これは、やっぱり何者か。 泥棒が──居る? それとも気の所為? 私は何か事件に巻き込まれた渦中にいるのではないかと、急に不安になり心臓が早鐘を打った。 泥棒か見知らぬ人がまだこの部屋に潜んで居るのではないかと、嫌な想像がむくむくと膨らむ。 ゴクリと、喉を鳴らした瞬間。 ガチャりと施錠した鍵を開ける音がした。 そして、ドアがゆっくりと開いた。
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