ヤツはなんでもないものを盗んでいきました

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「本当はもっと色々とやりようがあったんです。警察への被害届けを提案したんですけれど、メンヘラ状態&共依存になっていたあなたは頑なに拒否。とにかく超面倒で。それで命を優先しようと思い。記憶を抜いてやろうと思ったんですよねー」 「そんな事が出来るんですか?」 「Yさんが居ないスキマ時間を駆使して。事前準備をして。本日見事、記憶を盗むのに成功したと言う感じかな。当初は──だけを盗もう思っていたんですが、緊急事態が起こり変更しました」 言葉の後半は何か言い淀んだ感じがしたが泥棒は そこで、よいしょと立ち上がり。 これがそのですと、クローゼットを開けた。 そこにはぐるぐる巻きにされて猿轡(さるわぐつ)を噛まされた男性がぐったりしていた。 「ひっ!」 「これがその最低DV男、Yさんでーす」 「そんな人、知りません!」 「おしっ! 本人を見ても思い出さない。成功です!」 「何ですかその人は! なんでっ、そんな状態になっているんですかっ」 「あぁ。今日もスキマ時間を狙って訪問しようとしていたんですが、約束の時間になっても何時もの連絡が来ないから、まさかと思って予めMさんから貰っていた合鍵で部屋に突入したら、Yさんがあなたの首を……」 そこからは泥棒は、淡々と。 私からYを引き離し。 気絶させて縛って。 クローゼットに押し込み。 もう記憶を抜かないと本当に死ぬぞ、と。 私に差し迫り。 私にあのメモを書かせ。 記憶を抜いて荒療治を行ったと。 そして私はここ二ヶ月の記憶を抜いたのだと。 泥棒はそう言った。
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