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「……お嬢様、お嬢様? お目覚めでございますか?」
呼びかけに応える代わりに、ベッドの上に横たわる女性は、「うん……」と寝返りを打った。
「お嬢様……ジュリアお嬢様。もうそろそろお起きになられてくださいませんか?」
ベッドに眠る女性──ジュリアが、頭の下にあった枕を耳にあてがい、耳元でくり返される男性の声を鬱陶しそうに遮る。
「……ん、ねぇ、もうちょっと寝かせてよ……リュート」
彼女からリュートと呼ばれた男性は、
「いけません、お嬢様。もうお昼時にもなりますから」
羽根枕をそっと手でどかすと、ジュリアの耳へ、薄紅く艶っぽい唇を寄せてそう囁きかけた。
リュートの声音はいつも柔らかに甘く響いて、彼女の耳をうっとりとくすぐるようだった。
「……だって、まだ眠いんだもの。もう少しだけ……いいでしょう?」
ジュリアは少しだけ目蓋を開けると、真上から見下ろしている端正なリュートの顔を見つめた。
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