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その日、10月10日は、明子の10歳の誕生日だった。
母が、急に「明日、明子のお誕生会をしよう。」と言った。
「えっ?」
今まで、そんなこと言ったことないのに、しかもお誕生日は今日だ。
母は「一日遅れのお誕生日だよ。明日ご馳走するから、友達呼んでおいで!」
友達と言っても、引っ込み思案でおとなしい明子には特に親しい友達はいない。
それでも母が言ってくれている。明日、学校に行って探そう。
翌日学校へ行き、少しおしゃべりをした事のある子に声をかけてみた。
「今日、私のお誕生会をするから来てくれる?」
声をかけられた子もびっくりしていたようだ。しかも今日の事。
でもみんな喜んで行くと答えてくれた。
そして明子を入れて5人集まった。
ばら寿司に、サラダ、ハンバーグ、コロッケ、フルーツの盛り合わせ。
明子は嬉しかった。こんなご馳走を、しかも友達を呼んで一緒に食事が出来るなんて、夢のようだ。
食事が終わってトランプをして遊んだ。
明子は楽しくて仕方がなかった。こんなに友達と遊んだことがなかったから。
そして、帰る時に、明日時計台の下に集まろうと約束した。
次の日、放課後みんなで集まった。
良子ちゃんは、何やらカードを持って来て、みんなに1枚ずつ渡し、
「仲良しのしるしだよ。ここに集まった時に、見せるんだよ。」と言った。
みんなは頷いて、受け取った。
にわかに仲良しグループになった5人。
明子はこんなにも簡単に仲良しになれるんだと驚いた。
そして、毎週土曜日に集まるようになった。
年が明けて1月17日5時46分阪神淡路大震災が起こった。
明子は何が起こったのか分からず布団をかぶりしがみついた。
しばらくしておじさん(母の弟)から電話があった。
「大丈夫?」と言った声がしたが、その後すぐに電話が通じなくなった。
明子たちが住んでいる辺りはそんなに大きな被害は無かったが、
阪神地域では大変な事が起こっていた。大人たちが動き回っていた。
大変な事が起こったと言う事だけは明子にも解った。
それからしばらくして登校し、5人が時計台の下に集まった。
5人共無事だったことを喜んだ。
「卒業式の時もここに集まろうね。」と約束した。
しかし、その後良子が来なくなった。
引っ越していったのだ。誰にもさよならを言わずと言うより、言えずに言ってしまった。
5人で集まることはもうなくなってしまい、何となくバラバラになってしまった。
こんなにもあっけなく解散になってしまうとは。
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