そして、僕の恋心は奪われた

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「で?何そんな浮かない顔してるの?」 「いや……恋なんてするもんじゃないなって」 「何、いきなり」  鈴音がその名の通り、鈴を転がすような声で笑った。 「ほら、どんなに恋が芽生えてもさ。結局は恋の矢に振り回されるじゃないか。それまで好きだった相手を忘れたり。嫌いだった相手を好きになったり」  そう。人の心は所詮、神様次第だ。 「そういうの見続けてきたからさ。恋なんてするだけ無駄かなって」 「……ふーん」  ん?  鈴音の相槌が思ったより低い声で返ってきた。 「す、鈴音?どうした?」 「無駄、ねぇ…」  何だか鈴音から黒い気配を感じる。  鈴音はふっふっふっ……と怪しげに笑っている。  あ、何か、ヤバい。  何故だかわからないけど、脳裏で危険信号が光っている。  じり、じりっと、鈴音から少しずつ離れる。 「あんたは」 「え?」 「あんたは恋をした事がないの?」  急にストレートを放られて、僕の心臓が早鐘を打ちはじめる。 「ぼっ、僕の事はいいだろ⁉︎僕がさっき言ってたのは人間のはなしっ」 「恋に人間も天使も関係ないわよ。天使だって恋するわ」 「そりゃっ」  天使だって感情はある。恋だってする。  ただ、人間と違って長い寿命だからだろうか?  人間ほど恋に熱量がない。  恋が成就して上手くいっても、その先の長い年月で段々とがきて。  自然消滅するか、軽く楽しむ程度の付き合いをするか。  そんな天使を多く見てきた。  でも僕は……。  まだ若い天使という事もあり、自分の恋は密かに大事にしている。  相手にはまだ伝えていない。  意気地なしだってわかってるけど、玉砕したくないのだ。  そう。  目の前の彼女に。
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