そして、僕の恋心は奪われた

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「ふーん……」  鈴音はそう言うと、おもむろに立ち上がり羽を広げて屋根から離れた。  ……俯いているが、何だか纏っているオーラが黒い。  やばい。  さっきから鈴音の様子がなんだかおかしい。  僕は何か鈴音の地雷を踏んだのか?  鈴音の雰囲気に僕は『逃げなきゃ!』と全身で感じた。  刺激しないようそっと立ち上がったが、それより鈴音が早かった。 「あんた、嘘つきだね」 「へ?」  鈴音の唐突な発言に僕は戸惑う。 「恋をしない方が幸せ?後生大事に抱え込んでいるくせに」 「んなっ!」  何で⁉︎  誰にも言ってないのに!  しかもなんで鈴音が知ってるんだ⁉︎ 「しない方が幸せって言うなら……」  鈴音が手に弓を構える。  でも番える矢はいつもの『恋の矢』ではない。 「っそれはっ‼︎」  鈴音が僕に向かって矢を放とうとしている。  逃げなきゃ!  あの矢は、あのは。 「あんたの望み、私が叶えてあげるっ‼︎」  叫ぶような鈴音の声が耳に到達すると同時に、矢は僕に突き刺さった。 「鈴音、なんで……」 「あんたが望んだんでしょ?」  矢で射抜かれたショックもあり、鈴音の表情が見えない。  でも、どうしてこんな事。 「僕は、望んだ覚えは、ない」 「……でも。今のあんたが、持っていても仕方がないでしょ」  鈴音の声が最後まで僕の耳に届くことはなかった。  鈴音は、ぼくの中から離れていった”ピンクの球体”を手のひらに乗せて、切なげに見つめていた。
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