そして、僕の恋心は奪われた

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「さ、帰ろうかな」  ここ数日、仕事はすこぶる順調にこなしている。  少し前は、何だか憂鬱に感じる時もあったはずなのに。  何だろう?  なんか鬱っぽかったのかな?  何で解消されたのかもわからないけど、なんだか妙にスッキリしている。 「おーい」  遠くから呼ぶ声。  声の方を見ると、同僚天使のジョーがいた。 「そっちも仕事終わり?」 「そ。最近、順調でねー」  ジョーは少し小柄で、まだまだ少年っぽさが残っている天使だ。  とはいえ、外見と天使の年齢は一致しない。  寿命が長い天使にとって年齢なんて意味はない。  結果、自分の年齢を知っている天使はほとんどいない。 「そういやお前、知ってる?」 「何をだよ?」  唐突な問いかけに僕は疑問を返した。 「鈴音、禁忌破って判決待ちだって」 「……はあっ⁉︎」  鈴音が?禁忌破ったって? 「何でだよ⁉︎」 「なんでも私用で矢を放ったらしいよ」  鈴音は、1番仲のいい同僚だ。  裏表なく、飾らず、自分に正直なヤツだ。  決してルールを破るヤツじゃないし、企んだりあくどい事をするヤツじゃない。  そんなヤツが私用で矢を放つなんて。 「何でそんな事……」 「さあな。でも、鈴音だから。譲れないがあったんじゃないか?禁忌を破れば罰せられる。そんなの承知で、それでも矢を放つ衝動があったんだよ、きっと」  鈴音が罰せられるというのに。  ジョーは鈴音を誇りの様に言う。 「僕にはわからない。罰を受ける事がわかっても譲れないものなんて」  ただ、鈴音が罰せられるなんて嫌だ。 「どうしたら鈴音は許されるんだ?」
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