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今日も馬鹿みたいな絵を空に描いている。
街の新聞は謎の絵描き【X】のことで持ちきりだ。その正体は、昔芸術界で一世を風靡した老人とも、天賦の才を持った絶世の美女だとも言われている。
馬鹿馬鹿しい。どいつもこいつも、その目で見たことがないくせに、どうして勝手に人物像を作り出すのだろうか。結局やつらは作者という情報を介して作品を見ている。ただ純粋に作品を味わい、それを理解する頭がないのだ。
そういう適当な噂を耳にするたびに、審美眼のない馬鹿共が芸術を語っていることに笑えてくる。【X】の正体がおれだと分かれば、一体どんな顔をするのだろうか。
結局、真の芸術なんてものは誰にも分かりはしない。それはきっと、おれも含めて。芸術というものは、人間ごときの矮小な器では計り知ることができないのかもしれない。だからこそ素晴らしいのだけれど。
「さて、やってやりますかね」
空色の羽根を手に取り、今日もおれは世間を嘲笑う。
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