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最高傑作はまったく進まない。自分で上げたハードルが、それこそあの空まで高く成長しているようだった。
空に絵が浮かばなくなり、世間では絵描き【X】の死亡説がささやかれている。それもあながち間違いではないが、言うにはまだ早い。おれの寿命はまだ残っている。大人しく待っていろ凡人共め。
ただ上手い絵を描くだけでは足りない。どんな馬鹿でも称賛する、おれの人生が凝縮されたような深さを宿した絵。真の美、それを描いてこそ満足できる終わりを迎えられるというもの。しかし、考えれば考えるほど、自分がどんなものを描きたいのか分からなくなっていった。
筆が進まないまま時だけが流れ、おれは毎週あの少年に絵を描くのがお決まりになっていった。
どんな絵を描いても彼は大喜びするので、おれとしても気分がよかった。すっかり忘れていた何かが、心の中で蘇りつつあるのを感じていた。
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