7人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじさん、まだ?」
「こら、動くな」
ある日、彼は似顔絵を描いてほしいとおれに頼み込んできた。目の前の人の顔なんて描くのは初めてだから、少し緊張する。それに今日の彼は、何だかいつもの明るさがないような気がした。いつもよりも時間をかけ、おれは彼の情報を線に変換した。
ようやく描き終え、おれは達成感の息を吐く。しかし、本当に愛くるしい顔立ちだ。このまま翼をちょいと足してやれば、それだけで天使の絵になってしまいそうだ。
「クソガキ、できたぞ」
「わあ……」
彼は完成した絵を持って、寂しそうに微笑んだ。やがてその顔は赤く染まり、堪えきれない嗚咽がその小さな口から漏れ出した。
まさか泣かれるとは思っていなかったので、おれは大いにたじろぐ。仕上がりに納得できなかった、いやクソガキと言ったのがまずかったのだろうか。
「お、おい、どうした。悪かったよ、クソガキなんて言って……」
「違う、違うよ」
首を何度も横に振り、彼はその絵をおれへと差し出す。
「おじさんに、僕の絵を持っていてほしいんだ」
その理由を尋ねると、彼は洟をすすりながら言った。
最初のコメントを投稿しよう!