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生きれば生きるほど、必要な金が増えていく。
絵を描くには生きていなければならない。生きるには金を稼がねばならない。金を稼ぐには売れなければならない。もはや、美に没頭できるような余裕などなかった。
服を売り、画材を売り、ついには誇りも売り払った。情けない気持ちで描いたその絵は、そこそこ売れて金へと変わった。
自分の理想が認められなければ、何もできていないのと同じことだ。作品が売れれば売れるほど、おれは惨めな気持ちになった。しかし、今は耐え忍ぶ時だ。金が貯まったら、自分の描きたい絵で世間をあっと言わせてやる。そう言い聞かせ、自分に顔向けできない作品を描き続けた。
やがて、その媚びた作品すらも相手にされなくなっていった。個性を捨てたその絵は、替えなんていくらでもきいたのだ。
何とか手に取ってもらえるように、人々の好みを考え抜き、人々が評価しそうな絵を描いた。しかし、少々興味を示されるだけで、買う人間などひとりもいなかった。だったらと開き直って好きに描いてみたが、それは足を止めることすら叶わず、ただ一瞥されるだけに終わった。
心が削れ落ちていくのを感じていた。売れないから金がない。金がないから余裕がない。余裕がないから笑えない。
売れていた頃の貯金は、家で何もせずに消費を抑えたとしても、あと一年持つかどうかだった。それを画材に費やすと、おそらく半年も持たない。焦燥だけがおれの身体を巡っていた。
人々の心に何も刻めないまま死にたくない。人として死ぬことは構わないが、絵描きとして死ぬことが何よりも怖かった。
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