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どうやら空に描いた絵は、三時間ほどで消えてしまうらしい。
街のやつらに見られる絵。おれは今までの鬱憤を晴らすために風刺画を描き始めた。
匿名で描くからこそ、風刺というものは皮肉の深みを増す。鳥籠に囚われた鳥を描けば、人々はその絵に様々な価値を見いだそうとした。
これは絵画の未来を揶揄しているだの、実はあの鳥籠は鳥を縛っているのではなく、外の世界から守っているだの。おれはそれを耳にしてせせら笑った。ただ、この狭苦しい街を馬鹿にしてみただけだ。的外れな意見を聞くのが楽しかった。
お偉い評論家が「作者はもっと鳥を大事にせよという意味を込めているのです」と発言していた時は思わず失笑した。作者でもないくせに、何を分かった気になっているのか。
馬鹿馬鹿しいよな笑っちまうぜ、あんたら全員ボンクラだ。
何も考えずに描いてみたらどうなるのだろう。おれは試しにりんごを描いてやった。すぐにそのりんごは「医者いらずと呼ばれる果実、つまり医学の未熟さを批判している」とか「これは違法薬物のことだ」とか「頬を染める恋人のことを想った絵だ」なんて意見が飛び交い、激しい論争が行われた。自分の意見の正しさの奪い合い。この上なく滑稽だった。
きっと、そういうやつらは作品に込められた想いではなく、他人が分からないことを理解できる自分を探しているのだろう。
完成した絵は、毎回大きな×印を書いて台無しにしてやった。あくまでもこの絵は、おれの所有物なのだという証明だ。その手口から、いつしかおれは【X】と呼ばれるようになった。
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