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「それで、何描いてるの?」
「いや、まだ何を描くか決まっていないんだ」
「じゃあ、あの空描いてみてよ」
その言葉にぴくりと反応する。彼は白い羊雲が浮かぶ空を指差していた。
「色なんて付けられないぞ?」
「いいよ」
「いいのか」
そう言うと、彼はおれから距離を取る。完成するまで見たくないらしい。変わった子供だ。
さっそくおれはリクエストに応えることにする。鉛筆を忙しなく動かし、陰影を作って空の濃度を表現し、羊雲をふたつ浮かべた。ただそれだけだから、そんなに時間はかからない。せっかくだから【Label】とサインしておいた。絵描きとして、自分の作品にはサインを残しておきたい。
「クソガキ、こんなもんでどうだい」
そのページを取って渡すと、彼は目を輝かせて叫んだ。
「わあーっ! おじさん上手いね! あんまり売れてなさそうなのに!」
「後半は余計だ。事実だからやめろ」
「ありがとう! これ、病室にも持っていくね!」
想定外の言葉に、次の発言が遅れてしまう。
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