静謐な空気の中で

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 ナホは、東屋の椅子にゆっくりと腰掛けた。最近、背中や足腰に違和感を感じている。  見晴らしのよい東屋は比較的涼しく、真夏の厳しい日差しを避けられるのでありがたい。  肩に掛けていたリュックを横の椅子に置き、テーブルに肘を付いて顎を乗せた。目の前の景色をぼんやりと眺めひとりごちる。 「掃除も済んだし、お参りも終わったから ……そろそろ帰ろうかな」  ため息混じりにもれた言葉は静謐な空気の中に吸い込まれるようだ。しかし、思いとは裏腹に体は中々動き出さない。  あの子の月命日には、必ずこの場所ヘ来ている。ここの眺望は多数の口コミにもあるように抜群に良い眺めだ。自然の美しさを活かした霊園は四季折々の変化を楽しめる。  楽しめる…… そう、 「一人じゃなければ……ね」  ナホは、寂しさと虚しさ、そして諦めが混ざりあった苦笑をひっそりと浮かべた。  一人置いていかれた、この辛さ。今でもあなたたちをゆるしてないんだけど、ね。
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