静謐な空気の中で

2/8
前へ
/8ページ
次へ
 ナホは、そのままそっと目を閉じた。今も鮮やかにあの子の姿が浮かぶ。まるで昨日のことのように…  あれは、何年前になるか…… 「真凛ちゃん」 「ハーイ」  ナホが呼ぶと真凛は何がそんなに嬉しいのか、キャッキャと手を叩いて喜んでいる。そして、先月会った時よりもしっかりとした足取りで走ってくる。  ついこの間まで赤ちゃんだと思っていたのに、時間の流れは早いと感じる。少し会わないだけで驚く程成長しているもの。   今日は真凛と何して遊ぼう。ボール遊びもいいな。 「ナーちゃん、ナーちゃん」 「真凛ちゃん、ボール遊びしようか」 「ボール、ボール」  真凛はナホの妹。まもなく三歳を迎える。どうやら、ナホのことを忘れないでいてくれたらしい。しかし、ナホが姉だと理解しているかは奇しい。けれど、それはナホにとってはどうでも良いこと。真凛に会えることが何よりも嬉しいことだから。  ナホがボールをゆっくり投げる。幼い真凛が取れるはずもなく後ろへコロコロ転がっていく。真凛はキャッキャと笑いながらボールを追いかける。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加