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急いで戻って来た大河
「美桜! 座って!」
向かいあったダイニングの椅子をガタンと引いて、黙って座った。
今から、私はいったい何と告げられるのだろう?
『ごめん! 副工場長の勧めで、〇〇のお嬢さんと結婚することになったんだ!』とか……
それとも、『今までありがとう! 結婚することになったから、ごめんな!』と追い出される?
とにかく、悪い台詞ばかりが頭に浮かぶ。
「美桜が何を誤解してるのかは、分からないけど……」
と、言うと大河は、1枚の紙を取り出した。
「……」
婚姻届だった。
大河の名前と、証人の欄には、お母様の名前が書いてあった。
「誰と結婚するの?」と、私は真面目に聞いた。
「は? 何言ってんだよ! 美桜に決まってるじゃんか? 」
「え?」
「美桜! 籍入れよう!」
「え……」
何がなんだか分からなかった。
さっきまで悪い方にばかり考えていたから、
ただ、その婚姻届だけをボーっと見つめていると、泣けて来た。
「え、え、美桜〜?」と慌てる大河
「だって……大河、今日、何も話してくれなかったから……副工場長に結婚勧められたって、それしか……」
「そうだよ。副工場長は、美桜が録音してくれてた音声で、俺が美桜って下の名前で呼び捨てにしてたことに気付いてたんだよ!」
「え?」
「だから、『恋人が居るのか?』って聞かれて、正直に話したんだよ、美桜と結婚前提で同棲してるって。そしたら、『もう結婚すれば良いんじゃないか?』 って、今日みたいなことがあっても既婚者という事実がある方が良いって」
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