『死ぬ』ということ

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 会場からは、時折すすり泣く声が聞こえていた。100名を越える参列者の中に、俺はぽつりといた。  副院長の通夜。俺はその病院で介護福祉士として働いている。みんな仕事が終わり、息つく間もなくここへやってきた。そして今、俺は自分の焼香の順番を待っている。    俺の隣の男性が席を立ち、焼香の列に並んだ。それに続いて俺も席を立つ。男性の後を追って列に並ぶ。焼香の前には、まだ5・6名の人が待っていた。  坊さんがずっとお経を唱えている。正面には副院長の遺影が優しく笑っている。  家族のいる右側に一礼して、正面へと進む。副院長に一礼し、抹香をひと摘み、目の前にかざして香炉に入れる。数珠を左手にかけ、合掌。静かに一礼して、会場の端を通って自分の席へと戻る。  みんな列を乱すことなく、行儀よく手順に従い動いている。まるで蟻の行列のよう。  どれだけの人が心から故人を悼んでいるのか、正直分からない。副院長と話したことのない人も中にはいるはずだ。  でも、どうしてだろう?  俺は得も言われぬ寂しさに包まれていた。
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