児島くん

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「村田さん、おはようございます」  1号室から順々にベッド周りの清掃を行う。手袋をして除菌シートを取り、ベッド柵や床頭台、加えて廊下の手すりやトイレのドアノブなどを丁寧に拭いていく。  患者の中には声を掛けても反応のない高齢者もいた。脳出血により、意識がはっきりせず、常に眠っているような患者。それでも俺は1人1人に声をかけた。  聞こえているかは分からない。少々手を抜いても、絶対に分からないだろう。それでも俺は丁寧にベッド周りの清掃をした。自分の親も同じような状態なのだ。それを想うと、少しでも快適な環境を提供して上げたかった。  実習生の児島君は、俺の姿を見ながら手伝ってくれた。活発な明るさは見られないが、根は真面目なのだろう。1つ1つの動作が丁寧だった。  ひと通りの清掃を終え、オムツ交換を手伝う。それにも児島君を連れていった。実際の介護の現場は明るいことばかりではない。尿や便が手についてしまうことだってある。そういう生の現場を見てほしかった。  どう感じるかは本人次第だが。
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