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『死ぬ』ということ
1人の少女が地面を見ている。
その場にしゃがみ込み、一点を見つめたまま、ピクリとも動かない。ただじっと、地面を見ている。
何を見ているのだろう?
俺はその視線の先に眼を凝らした。
蟻の行列。
何千匹もの蟻の大群が列を成し、途中でぶつかったり道を外れたりしながら、行進していた。
それまでじっとその様子を伺っていた少女は、何を思ったか突然立ち上がり、自分の右足を高く上げ蟻の列に勢いよく下ろした。
少女は何度もそれを繰り返し、蟻の列を粉砕した。蟻は隊を乱され、多数の犠牲者を出し、その界隈を慌てて這っていた。
近くにいた女性が、慌てて少女を蟻から引き離した。少女の母親だろう。
「蟻にもお父さん、お母さんがいるんだよ。そんなことしちゃいけない」
母親がそうたしなめると、少女は素直に頷いた。
「アリさん、ごめんなさい」
そう言って、頭を下げて、母親とその場を立ち去った。
母親と少女の後姿を見送り、俺はベンチから腰を上げた。
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