0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、下村君だ!」
声をかけられた方へ振り返ると、そこには上島の姿があった。
やっぱり来たんだ、なんて言われて、僕は思わずむっとする。やっぱりってなんだよ。
「ね、せっかくだからさ、手、繋ごう?」
僕の内心を知ってか知らずか、上島は能天気に笑いながら僕に手を差し出す。
僅かに躊躇った後、僕は手を差し出す。
が、一旦繋いだ手を、上島は振り解いた。
「手袋、邪魔なんだけど」
……やっぱり変な奴だ。
僕は渋々手袋を外し、再び手を繋ぐ。上島の手は随分と冷えていて、ぼんやりとしていた僕の意識を現実へと連れて行く。
なんだか気恥ずかしくて、僕は少し咳払いをしてから、「ところで」なんて呟く。
「ずっと気になってたんだけど、あのメール、変えていったの上島さんだよね」
尋ねると、上島は特に悪びれた様子もなく、
「あ、バレてた?」
そう言ってにこやかに笑った。
「だってさー、下村君全然信じないんだもん。意地になるじゃない?」
僕のせいだってのかよ。しかしその意地がいまや、この校庭を覆い尽くす人数にまで繋がっているのだ。恐るべく執念。
僕と上島が繋いだ手の反対側にも、老若男女関係なく人がどんどんと繋がっていき、まるで一本の鎖のようだった。鎖は校庭だけに留まらず、更に伸びて伸びて、校門を飛び出してずっと繋がっているようだった。とんでもない話だ。
最初のコメントを投稿しよう!