怪しい名探偵 第4回 コスプレ刑事?

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 そんな海老名と丸出のやり取りを、同じ捜査1係の女性刑事・新田清美(にったきよみ)は、海老名の向かい側の席からニヤニヤしながら見守っている。  「エビちゃん、あのおじさんにお酒おごってあげたんだ」  丸出が大の仲良しである立川進(たちかわすすむ)刑事課長の席へ歩いて行くのを見ながら、新田は海老名に声をかけた。  「いや、あれはちょっと事情があってね……」海老名が言い訳をする。  「ふうん」新田が相変わらずニヤニヤ含み笑いをしながら、立ち上がった。「あのおじさんと、もうそこまで進んだんだ」  「何が言いたいんだよ、新田さん」海老名が不機嫌な顔で言う。「まさか俺があの丸出のバカと愛し合ってる、とか言うんじゃないだろうな?」  「やっぱりそうだ、あのおじさんと愛し合ってるんでしょ?」  「もういい加減にしてくれないかな? そういう変な妄想。男同士で普通に仲良くしてるのを見て、あの2人は愛し合ってるとか……俺がフジさんや大森と仲良くしゃべってるのを見て、あなたたち愛し合ってるでしょ、と言うだけならともかく……それもやめてほしいんだけどさ。でも丸出だけは絶対にやめろ。あいつは死ぬほど嫌いなんだよ。今度言ったらマジで切れるからな」  「でもツンデレって実は好きなのに嫌いとかよく言うし、喧嘩するほど仲がいいとも言うでしょ? やっぱりエビちゃん、丸出のおじさんと愛し合ってるんだ」  「うるせぇ、このババア! いい年こいて結婚もできないどころか、男と全く付き合ったこともないくせに、わけのわからないこと考えるんじゃないよ! ボーイズラブなんか読むのやめて、ホストクラブにでも行って男に犯されてこい! 40何年も張り続けてる処女膜に大きな穴を開けてから、男のことを論じるんだな!」  新田が口をあんぐりと開けながら、海老名を見つめて固まっている。まるで動画を一時停止したかのように。  「ごめん……ちょっと言い過ぎた」海老名はすぐ新田に謝った。  ボーイズラブ漫画愛好家、いわゆる「腐女子」がみんな、このようなことを考えるのかどうかを海老名は知らないが、新田の変な妄想癖は男中心の刑事課で、異様な蛍光色を放っている。何かというと誰々と誰々は愛し合ってるだの、誰々と誰々が愛し合ってるだの……しかも男同士で。だが、またあのおばさんが変なことを言っている、と誰もがわかっているので、変な噂が煙を上げることもない。いったい新田は、生身の男と恋愛するのが苦手だからボーイズラブにはまるのか、それともボーイズラブにはまっているから生身の男と恋愛できないのか……
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