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嘘が吐けない俺を試すかのような、虚構だらけの悪夢を見た。
俺は、実際に”嘘”をつくと数時間は頭痛や吐き気に襲われる、”未知なる病”に蝕まれている。たとえそれが軽口程度だったとしても。
まぁ、人間に認知されている事実など、この世に存在するもののごく一部だろうが。
主治医の見立てによると、嘘のつけない病に冒された根本的な理由は、歪んだ、嘘まみれの家庭環境にあるらしい。
にしても、レム睡眠のタイミングで、エアコンの三時間タイマーが切れたことが悔やまれる。
睡眠不足の上に、仕事が早番だってのに。
しかも、追い討ちをかけるように、メッセージアプリのデフォルト着信音が、脳ミソの”強制覚醒ボタン”を押しやがった。
深いため息混じりに耳の横あたりをガサゴソとまさぐって、つかんだモノを顔の正面にかざす。それから、まぶた越しにほんのりと感じるディスプレイの光を、耳へと押し当てた。
「もしもし、斗真? マナミだけど」
「えっ⋯⋯あ、あぁ」
「こないだは驚いたよ。斗真が快人の同僚だったなんて。でも、嬉しかった。元気そうな顔が見られたし」
快人は、まともに友だちと呼べる人間などいない俺の、唯一の”飲み仲間”だった。
先週のこと。
これから彼女と食事なんだ、と頬を緩めた快人が、会社のエントランスで待ち合わせをしていたのは、高校時代の同級生のマナミだった。
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