踊るミネストローネ

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踊るミネストローネ

私の絵の上で、 赤いミネストローネが踊っている。 「ご、ご、ごめん!何か拭くもの…」 2年1組の教室には、騒然とした空気が流れている。私は未だに現実を受け入れられていない。 徳井くんは、慌ててトイレットペーパーで赤いミネストローネを拭き取った。 しかし、もう遅かった。 徳井くんは、その赤く染まってしまった絵の前に呆然と突っ立っている。その表情からは、溢れんばかりの謝罪の気持ちが見て取れた。 「もう、取り返しつかないよね」 今徳井くんと話をするのは危ない。何か些細なことがきっかけで、口の中から暴走した丸裸の言葉が飛び出ていく気がしてならないからだ。結果、私は何も言葉を返せなかった。 「佐伯。美術の大会の提出期限には間に合うのか?」 大柄で昔ながらの熱血教師の雰囲気を持っているが、中身はまるで現代人の本宮先生。珍しく落ち着いたトーンで話しかけてきた。さすがの先生も空気を察しているようだ。 「放課後、顧問に確認してみます」 全ての感情を抑えた声で、返事をする。 「そうか。もう起きちゃった事はしょうがないから、佐伯も徳井もとりあえず飯食え。時間ないぞ」 本宮先生なりの気づかいで、2人は席に戻ることができた。2人の席が離れていた事は幸運だった。 私は、自分の絵と徳井くんのことを 放課後まで一度も見ることができなかった。
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