フライトレコーダー

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しかし、機体は北を向き始めた。 横田基地から離れていく。 我々は機体の進む方向を制御できないのだ。 「これはもうだめかもわからんね」 機長は飛行場への着陸は難しいと判断した。 しかし、まだできることはあるはず。 木更津のレーダーサイトに誘導を依頼する。 『了解しました。羽田空港、滑走路(ランウェイ)22なので、ヘディング090(真東)をキープしてください。現在、コントロールできますか?』 「操縦不能(アンコントローラブル)です」 『了解』 もとより、レーダー誘導は無理な状況ではあったが、それでも依頼した。 我々の位置をレーダーでしっかりと把握してもらうためだ。 管制は真東(090)を指示してきたが、機体は北西(315)に向かってしまう。 羽田とはまったく反対の方向だ。 羽田空港に着陸できる見込みはなかった。 目の前に山が迫ってくる。 機長は叫ぶ! 「ターンライト! 山だ! コントロール取れ、右! 山にぶつかるぞ!」 「はい」 山への激突は避けられた。 しかし、再び別の山が目前に迫る。 「レフトターン! 今度はレフトターンだ!」 次の山もなんとか避けることができた。 しかし、これ以上はもう持たないであろう。 機長は決心した。 「山いくぞ!」 「はい」 山間部への不時着しか方法がない。 失速の警報が鳴り始める。 「ああ、だめだ! 失速!(ストール) 出力全開!(マックパワー)」 不時着するために速度を下げれば、当然、揚力を失う。 失速を防ぐために、エンジンの出力を再び上げる。 副機長は、不時着するには速度が出過ぎていると判断した。 「スピード出てます、スピード」 「どーんといこうや!」 機長が励ます。 速度を落とすと、不時着する前に失速して墜落してしまうのだ。 機体を水平に維持するためには速度が必要だ。 機長は姿勢維持を優先した。 かなり強行な不時着になるだろう。 「がんばれ!」 「はい!」
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