フライトレコーダー

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航空機関士は機長に告げた。 「緊急着陸(エマージェンシーディセンド)やったほうがいいと思いますね」 「はい」 その時、また機首が極端に上を向いてしまう。 「頭下げろ!」 機長は思わず声を張り上げる。 機首が上がり過ぎると、失速して墜落してしまう。 航空機関士が提案する。 「ギアダウンしたらどうですか?」 ギアダウンとは、着陸用の車輪を出すことである。 これによって空気抵抗が発生し、機体の速度を抑えて姿勢が安定するかもしれない。 「出せない!」 なんと、油圧系統の異常は、車輪の方にまで及んでいたのか。 しかし、ギアは電動でも出すことができる。 航空機関士は、油圧以外の方法で車輪を出すことに成功する。 車輪の自重を使うことで、ゆっくりとではあるが出すことができたのだ。 「ギアダウンしました」 「はい」 副機長は、ほっと安堵する。 米軍横田基地からの無線が入る。 緊急遭難信号を、米軍も受信していたのだ。 機長は横田基地に返信する。 「現在、操縦不能(アンコントローラブル)」 東京コントロールからの無線も入る。 『123便、羽田に着陸しますか?』 どちらに着陸するか、選べる状況ではなかった。 機体をまともに制御できていない状態なのだ。 レーダーによると機体は現在、横田基地の西方に位置している。 機長は返信した。 「このままでお願いします」 横田基地からも無線が入る。 『こちら横田基地、着陸可能。123便、聞こえていたら機体識別コード5432を発信せよ』 『了解しました。スタンバイ』
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