9人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、機体は北を向き始めた。
横田基地から離れていく。
我々は機体の進む方向を制御できないのだ。
「これはもうだめかもわからんね」
機長は飛行場への着陸は難しいと判断した。
しかし、まだできることはあるはず。
木更津のレーダーサイトに誘導を依頼する。
『了解しました。羽田空港、滑走路22なので、ヘディング090(真東)をキープしてください。現在、コントロールできますか?』
「操縦不能です」
『了解』
もとより、レーダー誘導は無理な状況ではあったが、それでも依頼した。
我々の位置をレーダーでしっかりと把握してもらうためだ。
管制は真東を指示してきたが、機体は北西に向かってしまう。
羽田とはまったく反対の方向だ。
羽田空港に着陸できる見込みはなかった。
目の前に山が迫ってくる。
機長は叫ぶ!
「ターンライト! 山だ! コントロール取れ、右! 山にぶつかるぞ!」
「はい」
山への激突は避けられた。
しかし、再び別の山が目前に迫る。
「レフトターン! 今度はレフトターンだ!」
次の山もなんとか避けることができた。
しかし、これ以上はもう持たないであろう。
機長は決心した。
「山いくぞ!」
「はい」
山間部への不時着しか方法がない。
失速の警報が鳴り始める。
「ああ、だめだ! 失速! 出力全開!」
不時着するために速度を下げれば、当然、揚力を失う。
失速を防ぐために、エンジンの出力を再び上げる。
副機長は、不時着するには速度が出過ぎていると判断した。
「スピード出てます、スピード」
「どーんといこうや!」
機長が励ます。
速度を落とすと、不時着する前に失速して墜落してしまうのだ。
機体を水平に維持するためには速度が必要だ。
機長は姿勢維持を優先した。
かなり強行な不時着になるだろう。
「がんばれ!」
「はい!」
最初のコメントを投稿しよう!