フライトレコーダー

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機体がまた、上を向き始めた。 「頭下げろ!」 「はい! 今、コントロールいっぱいです!」 このままでは失速してしまう。 航空機関士が叫ぶ。 「出力全開(マックパワー)!」 機長も指示を出す。 「パワーでピッチを調節しないと」 油圧が使えないので、エンジンによる制御しか方法がないのだ。 「パワーコントロールでいいです。副機長にパワーコントロールさせてください」 航空機関士が機長に助言する。 副機長が速度計を読む。 「スピード220ノット(時速400km)」 東京コントロールからの無線が入る。 「123便、周波数を119.7に変えてください」 横田基地も、123便に再度、機体識別コードの送信を呼びかけてきた。 機体は、横田基地とは反対方向である西に向かって飛び続けている。 羽田空港の方からも無線が入る。 『羽田空港、横田基地、両方とも着陸可能(アベイラブル)です』 機長も副機長も黙ってしまう。 そのどちらにも向かうことができないのだ。 代わりに航空機関士が羽田管制に返信する。 「了解しました」 羽田管制からの無線が続く。 『これからどうするのか(インテンション)、聞かせてください』 どうするもなにも、山をよけ、失速を避け、ひたすら機体の姿勢を維持して飛び続けるしかなかった。 「頭上げろ!」 機長が叫ぶ。 今度は機首が下を向いてきたのだ。 頭から山に突っ込んだら大爆発である。 副機長が叫ぶ。 「フラップ アップ! フラップ アップ!」 しかし、高度は下がっていく。 地上接近警報が鳴り始める。 「パワー! パワー! フラップ上げろ! 失速(ストール)するぞ!」 「上げてます!」 「もうだめだ!!」 その後、2回の爆音がフライトレコーダーに録音されていた。 123便は群馬県山中に墜落、爆発炎上した。 機体の姿勢維持を徹底したため、墜落時に運よく、機体後尾が尾根の下に転落。 前半分の爆発炎上から逃れることができた。 生存者4名は、すべて、後部座席の乗客であった。 もし、機体が頭から突っ込んでいたら、機体全体が爆発し、全員死亡していたと思われる。
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