12歳

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12歳

「金田……。もし僕がDomじゃなかったらどうしよう」  そう縋りつく昭人さまのお声はとても弱弱しかった。日中であれば快活な笑顔を見せてくださる昭人さまも、夜の闇に身を置くと不安が襲ってくるのだろう。十二歳と幼い昭人さまに次期当主としてのプレッシャーが掛かっているとしたらなおさら。昭人さまのために敷かれた布団のそばで、昭人さまに慰めの言葉をかけるのがもはや習慣となっていた。  障子で閉ざされた昭人さまの寝室には、わずかな月明かりしか入ってこない。シンプルな勉強机も、参考書のぎっしり並んだ大きな本棚も、今は黒いベールを被せられたかのようにすべてが曖昧だ。しかし私の膝に感じるこの重みと体温だけは確かなものだった。 「きっとこの家にはいられなくなっちゃう」  昭人さまが身じろぎをしたのか、浴衣の擦れる音がする。しかし私のワイシャツを掴む手の力は変わらず、それどころかますます強くなっているようだった。昭人さまの指先が白くなってしまっているのではないかと、そんなことが気にかかる。 「そんなこと。ご当主様はそんなことなさいませんよ」 「どうかな。僕の代わりはどうとでもなる」  そんな言葉をかけながら、私は遠慮がちに昭人さまの背中を撫でる。本来であれば私が昭人さまに気安く触れるような身分ではないのだが、それでも昭人さまが安心なさるならどんなことでもしたいというのが私の想いだった。  昭人さまの丸いお顔を縁取る黒髪はよく手入れがされていて、風になびくとサラサラと揺れる。大きな黒い瞳と同じくらい大きな口は、眩しいほどの笑顔を形作るのに重要な役割を担っていた。お洋服が汚れるからとあまり外遊びをさせてもらえないせいか、日焼けのない肌は雪のように白く滑らか。背が低いことを気にしてらっしゃるようだが、まだまだ成長期の昭人さまならあっという間に私を追い越すだろう。その日を心待ちにしている自分がいた。
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