予感

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 床に就いてからも、私は眠れませんでした。なるべく気をつけて寝返りを打ったときに、漏れ聞こえた息で隣にいる源吾も眠っていないことに気がつきました。源吾も眠れずにいたようです。 「今回は最初からなにかが違った」  常夜灯だけの灯のなかで、源吾の声はいつもより大きく感じました。 「最初から?」  眠れずにいたことを伝えることもなく、私も返事をいたしました。 「あの店に行ったときからだ」  初めて零様がお仕事をされている便利なお店に、源吾が華様をお連れしたときのことなのでしょう。 「そしてあの雨の夜だ。華様は『雨が降ってよかった』と仰った」  それは初耳でした。  幼い頃から華様は雨がお嫌いでした。お小さい頃は『空が泣いてる』と仰って、旦那様がお留守の夜は私が華様が眠られるまで手を取っていたのですから。  あの雨の翌日、華様は透明なビニール製の傘をお庭に干されていました。 「ねえ加津。こうしていたらこの傘にも薔薇の香りがつくかしら」  笑顔でそう仰ったときの華様の頬が、ほんのりと色づいて見えたことを、私は陽の光をうけて(くれない)に耀く薔薇のせいだと思っておりました。でも違ったのかもしれません。 「華様がいつもと違う行動をされるということは、これまでとは違うのかもしれない」  おそらく源吾は、常夜灯の小さな橙を見つめながら呟いたのだと思います。 「眠りなさい。忙しくなるかもしれない。いつもとは違うことが起こるかもしれない」  源吾の言葉はなにを意味していたのでしょう。  ええ、私たちが望むのは、華様のお幸せだけです。  華様がお幸せになる結末だけです。  月光さえも惑わすように赤々と咲き誇っている庭の薔薇たちは、それがどんな結末なのかということを、既に悟っておりますのでしょうか。 【予感 了】
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