予感

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予感

 あたりまえのように陽が昇り、あたりまえのように夕焼けが来る。華様がお目覚めになってからしばらくは、私にとってそんな日々が続きます。  源吾は相変わらず忙しそうですし、華様も諸々のお勉強でお疲れのようですが、私はなにも変わりません。新しい物に慣れずとも何かが動き出すまで、このお屋敷のなかの時間は平凡に平和に過ぎてまいります。  退屈などと言ったらばちがあたりますけれど、少しは源吾が羨ましくなることもございます。  この土地から出ることができずにいる私を不憫に思ってくれるのか、源吾が訪れた里の様子を話してくれることはありますが、元々口下手な源吾の説明なうえに、あまりに早い技術の進歩が輪をかけて私にはさっぱりわかりません。殿方というのは皆、源吾のように進化をすぐに受け入れることができるものなのでしょうか。だとすれば大したものだと思いますが「なるほどなるほど」と独り言を言いながら事を進める源吾に、改めて惚れ惚れしていることは誰にも内緒にしてくださいまし。  華様がお話しくださることはまるで夢のような世界で、何やら物語を読み聞かせていただいているようでございます。一生懸命お勉強されているお時間のお邪魔をしてはまた源吾に叱られますので、質問などはせずにお聞かせいただく事ごとにただ驚くばかりでございました。  思えば華さまがお小さい頃、本をお読みする私を何度も止めてご質問をしてくださいました。そうですね、華様はその時分からたいそう多くの好奇心をお持ちでございました。こういう状況のなか、源吾以上の早さで知識を吸収されるお力は、あの頃からお持ちだったのでございましょう。    一人呑気な私ではございますが、さすがにいよいよ始まるときは、たいそう緊張いたしました。でも繰り返される事ごとが、いつも通りであることにだんだん慣れてしまっておりました。そうあの日までは。
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