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【初恋の残像】
「あのさ、飲み会行かない? 一馬くんに誘われてるんだ」
彼女から言われてまたかと思う。
「四人?」
そう聞くと『うん』と。彼女が私を誘うということは気になる相手なんだろう。
いつもそうだった。彼女は自分が狙っている相手がいるときは、キャンパスで連んでいる人たちを誘わない。同じような高レベルの美人たち、同じような男好きするキャラクター、その中で自分が霞んでしまうから。
「いいよ、いつ?」
「今日」
いつもどおり、彼女は悪びれる風もなく言った。相変わらずお嬢様の末っ子気質。でも私は彼女に誘われるのは嬉しい。彼女が私を誘うとき、それは本命の相手がいるとき。つまり聖人さんに似た人がいるということ。
「わかった、何時?」
「ありがとう! 摩耶はいつも急な誘いにのってくれるから助かる!」
まるで私以外にも声をかけてダメだったみたいな言い方。それは彼女のいつもの小さな嘘。
水野 聖花、中高一貫の同じ私立校から、同じ大学に進んだのはたまたま偶然のことで、特に仲が良かったわけでもない。中学のときは一緒に帰ることもあった。彼女が水野家の一員であることからなんとなく話すし、友達ではあったけれど、私と彼女は親友になるにはあまりに違いすぎた。
中学でも高校でも、彼女はスクールカーストの上位チームにいた。成績もよく先生受けもいい。そして美人なうえに水野家の一員。すべてを持っている人っているんだなと思っていた。
そんな彼女はもちろん男子生徒にも常に人気があった。運動部のエース級の男子が彼女に告白したなんて話は、半年に一度は私の耳にも入ったけれど、それがきっとうまくいかないことを私は知っていた。
だって違うから。彼女が好きなのは本当は物静かな人、どんなに人気者でも運動部のきらびやかな雰囲気を持つ男子はだめ。静かでストイックで、華やかな彼女には興味を持たないタイプの人。水野家の長男、聖人さんはそんな男性だから。
水野聖花は、小学生の頃からずっとブラザーコンプレックス。それもサッカー部のエースだった次男の聖治さんにではない。子どもの頃から私の祖父の病院に通っていて、喘息が落ち着いてからもスポーツには興味もなく、クラシック音楽が好きで、趣味でピアノを弾く。そんな長男の聖人さんに対して。
そして私も水野聖花と知り合う前から、祖父の病院に通ってくる聖人さんに憧れていたおませな小学生だった。多分、初恋。
だから彼女が水野家の一員であると知ったときから、タイプのまったく違う彼女と友達になったのかもしれない。つまり私も狡い。
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