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遅れて行った店には、もう私以外の三人は到着していた。いきなり誘われたのだから、もちろんいつもの普段着のままだ。そんなことはあまり気にもしなかったけれど、なぜだか今日は違った。もう少しお洒落な服装で来たかったなと思ってしまったのは、聖花の前に座っている男性が、これまでのどのときよりも聖人さんに似ている気がしたから。
ルックスだけではない。キャンパスで見かける今時男子のチャラさはない。お洒落ではなく無造作に伸ばされた髪、少し神経質そうに見える横顔と一見冷たく見える切れ長の目、すっと通った鼻筋に薄い唇、顎のライン、グラスを持つ細く長い指。
「おお、いらっしゃい。座って座って!」
聖花の隣りからそんな声をかけてくれた男性と、なぜ友達なのかわからないような静かな雰囲気。この人が、この会に来たくて来たのではないことが、一瞬でわかった。
「こんにちは」
横顔のままでかけてくれた挨拶の言葉は、店の雑踏のなかに消えてしまいそうなほど小さかったけれど、私の心のなかにはしっかりと浸透していく。できればこの音の上に、他の音(例えば、前に座る男性のけたたましい声)が上書きされてしまわないように、耳を塞いでいたいと思ってしまった。
そして聖花は、『一馬さん』と話しながらも、私の隣りでお愛想のように口元だけで微笑む、島津 零さんのことを潤んだ瞳でチラチラと見ている。今回も思ったとおり。でも今回が一番。
大学生になってから、こんな風に何度か聖花に飲み会に誘われている。何人もが集う合コンではない。そういうのには誘われたことはない。ほとんど四人。私と聖花と、聖花のお目当ての男性とその友達。これまでもルックスはなんとなく聖人さんに似ている人だったけれど、雰囲気や話し方までそっくりな人は初めてだと思う。そして誰も寄せ付けないようなストイックなオーラ。
彼が私のミントジュレップを飲んだときは、その大胆さに違和感を感じたけれど、彼が直接グラスに口を付けたことを見逃さなかった聖花がとった行動が、おかしくなっているうちにその違和感は忘れた。
そして私に渡されたハイボールを替えてくれたときのさりげなさは、この人の本当の優しさを垣間見せてくれた気がした。
これまでも何回も、聖花のおかげで聖人さんに似た男性を見ることができている。もちろん見るだけだったけれど、そのたびに初恋の残像が一瞬疼いた。でもそれはいつだって裏切られていた。
この人は違う気がする。私のなかにある初恋の残像を消し去ってくれる気がする。『島津 零』-だって私はこうして出逢った男性の名前を、初めて覚えたのだから。
【初恋の残像 fin】
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