3人が本棚に入れています
本棚に追加
【遺作】
いったい何があったのかということは、詳しくはわからない。わかっていることは、聖花が一馬さんと付きあいだしたという結果だけだ。
一馬さんは、どちらかというと水野家の次男、聖治さんに似ている。明るくて人見知りもしないスポーツマン。世間一般でいう必ずモテるタイプ。
ただし聖治さんも昔の軽いイメージはもうなくなっている。社会人になったということもあるけれど、長男、聖人さんが他界した今、彼が水野家の跡取となるからだと思う。
一馬さんはまだまだ聖治さんには敵わないけれど、この間、聖花を叱ったときの様子はなかなか素敵だった。それにチャラい雰囲気はあるけれど、聖花のことだけを想っていることは私でも感じる。聖花だってそういうのはまんざらでもないんじゃないかな。
聖治さんには聖治さんの魅力がある。聖人さんとは違うし、私はやっぱり聖人さんタイプの男性が好きだけれど、よく考えたら聖花には聖治さんタイプの男性の方が本当は似合うと思う。
つまり、一馬さんが頑張れば、聖花と長く付き合えるんじゃないかな。家柄的な角度から見ても、両家は釣り合っていると思うし。
もし万が一、聖花が零さんと付き合っていたらすぐに終わっただろう。文化ロードの図書館で、零さんに偶然会ったときにそれは確信になっていた。
偶然というのは違うかもしれない。大講義室での話を耳にしてから、意識して文化ロードに行っていたのだから。それまでは大学図書館しか利用していなかった。
でもおかげで今は文化ロード自体が大好きになった。ちょうどいい季節に行ったからかもしれない。
文化ロードに行こうと思ったのは、零さんの彼女に会えるかもしれないと思ったからだ。あの人が選ぶのが、どんな女性なのかを見てみたかった。
零さんが彼女といるところを見れば、私が零さんに惹かれているのか、ただ初恋の残像を引きずっているだけなのかがわかるような気がした。
結構、マゾヒティックな確認の仕方かもしれない。彼のことが好きだと気づいた瞬間に失恋するのだから。
最初のコメントを投稿しよう!