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文化ロードで零さんに会った数日後、久しぶりに学食で聖花に会った。珍しく一馬さんも、いつものお友達たちもいなかった。
そういえば、一馬さんと付き合いだしてから、聖花はよく似たガーリー女子たちと一緒にいることが減ったかもしれない。一馬さんの心変わりを警戒しているのなら、一馬さんにとっては嬉しい話だろう。
「なんか久しぶりだね」
そう言いながら、近づいてきた聖花のトレーには、サンドイッチとコーヒーカップがあった。
「今からランチ?」
私の問いかけに頷いて
「摩耶は食べたの?」
と聞いてくる。空になってナフキンで包んだお弁当箱を持ってみせながら、
「終わった。一馬さんは?」
と聞いてみる。
「今日は妹さんとデートだから、午前で帰った」
そう言ってコーヒーカップをくるくると混ぜる。
「妹さんって、小説書いてる?」
私の質問にサンドイッチを食べながら頷く。
「私も読んだんだ。上手だよ。普通の小説より易しい言葉で書いてあるから読みやすいし」
あの水野聖花が、携帯小説を読んでいるってこと? あの水野聖花が。
「一馬も喜んでくれるんだ、妹さんの作品に〈いいね〉すること」
聖花は静かに驚いている私には気づかず、食事を続ける。
いや、驚いた。それほど一馬さんのことが好きになったということ?
「一馬って、ちょっとシスコンかもね」
聖花の言葉になんとなく納得がいった。そうか、一馬さんもお兄ちゃんだった。
「誰にも言ってなかったけどさ、お兄ちゃんも小説みたいなの書いてたみたい」
私の方は見ずに、サンドイッチを食べながら言う。お兄ちゃん、聖治さんではないよね?
「聖人さん?」
聖花は租借しながらこくりと頷いた。
「詩のジャンルなのかな、もしかしたらお兄ちゃんもああいうところで書いてたのかもしれない。誰にも秘密でってね。そんなこと考えたら、他の人が書いてるのも読んじゃう」
聖花はそう言ってから、スマホを開いてアプリを見せてくれた。
「聖人さんの名前があったの?」
「まさか、それホラーになっちゃうでしょ。私は大歓迎だけどね」
「じゃあなぜ?」
「お兄ちゃんのノートがあったんだよね、隠すみたいに」
ああいう亡くなりかたをした聖人さんの部屋はまだそのままなのだろうか。
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